戴き物のお部屋

□繋いで、紡ぐ
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デュークとの戦いも終わり、星喰みが消えた今、魔導器が使えなくて苦労しているけれども…人は協力し合いながら、この世界を生きてる。 だから、被験者は好きなのかもしれない。綺麗なことばかりじゃないけれど、人が生きてる世界が大好きだって思うんだ。まさか、自分が変わりゆく世界を見れるとは思っていなかったけれども。アッシュとローレライ、そしてユーリやレイヴンたち、皆には感謝してもしきれない。 オールドラントでは俺は生きていけないけれど、向こうのことはアッシュがたまに連絡して教えてくれる。星喰みが消失してからは回線も絶好調だ。やっぱり頭痛は悩みの種だけどな。俺はテルカ・リュミレースで生きていくんだろ う。レプリカだから、どれぐらい生きられるかは分からないけれど、それでもこの地を歩いていくんだ。


「ルーク殿、そろそろ休憩されては?」

「もうすぐ終わるから大丈夫だってーの。それに、今日はレイヴンが来る日だし」


俺が今居るのは騎士団のシュヴァーン隊の執務室だ。旅が終わってから、俺は一応騎士団に身を置いてる。たまにギルドの方にも顔を出してるけど。レイヴンに付いていったり、凛々の明星に顔出したりもしてるから、半々の生活だ。比率的には断然、騎士団の方が強いけどな。まぁ、騎士団での俺の仕事は各地の魔物退治の仕事が多いんだけどな。たまに帝都の見回りはするけれど。書類関連は俺がまだ文字に慣れてないから、期限のない書類以外はあまり回ってこない。でも、サインするだけの書類とかは多いから、今はそれらと格闘中だ。


「おぉ、それは早く終わらせねばなりませんな」

「レイヴンも書類溜まってるよな?」

「隊長なら2、3時間もあれば終わる量ですな」


レイヴンは騎士団とギルドを行ったり来たりだけど、俺と違ってギルドの方にいる方が多い。けれど、混合部隊を担当することが多いから、どっち付かずかも。たまにレイヴンがギルド代表で、俺は騎士団側で参加することもよくあるし。てか、フレンがそのように手配してくれてんだと思うけど。で、今日はギルドの方に行ってたレイヴンが騎士団の方に来る日だ。今日中とは言ってたけど、何時ぐらいに来るとは聞いてないから、 ひょっとしたら夜になるかもしれないけれど。2週間ぶり…かな? 俺も仕事で各地を回ってることが多いから、1ヶ月以上会えない時もあったから、まだ短い方かもしれない。


「よし、終わり」

「お疲れ様です」

「他の書類とかあるか?」

「いえ、ルーク殿の担当分はそれで終わりですな」

「んじゃ、ちょっと仮眠してきていいか?」

「はい。もし隊長がこちらにきても部屋にいると伝えておきます」

「ん、よろしく頼むな」


執務室を出て私室を目指す。ってーも、そんなに離れてないんだけどな。俺がこの世界に来てから使わせてもらってる部屋で、シュヴァーンの私室の横なのだけれども。レイヴンは部屋を完全に片付けて(元々私物が少なかったけど)、今は俺の部屋で寝泊まりしているけれど。だから、シュヴァーンの部屋は今は空き室だ。


「隊長補佐、丁度いいところに」

「ん?」


後ろから声をかけられ、振り向けば騎士が1人いた。確か、元親衛隊の騎士だ。今はフレン隊に配属してたと思ったけど。あ、俺が隊長補佐って言われるのは、一応、表面上はシュヴァーン…レイヴンの補佐役として配置されてるからだ。そこまで立派なことはしてないし、補佐はどちらかと言うと代理をよく務めるルブランだと思うのだけれども。何回フレンに抗議しても苦笑を返されるだけだから、もう否定するのは諦めた。あ、でも、納得はしてないんだからな。


「次の任務の依頼書です。3日後から。少しハードな任務かもしれませんけど」


そう言われて差し出された紙を受け取れば、魔物退治などの任務内容が書かれていた。読むのはまだ少し時間かかるけれど、大体の地名とか は見慣れたから、読むのは早くなった方だ。んーと、帝都の周辺やって、タルカロン跡地、ノール港、ヘリオード、そしてオルニオンか。ってーか、帝国の管轄殆どじゃヌェーか。これは1ヶ月じゃ終わらないか…


「これはハード過ぎでしょ」

「あ…レイヴン」

「シュ、レイヴン隊長、お疲れ様です!」


俺の後ろから手が伸びてきたかと思ったら、依頼書を取られた。レイヴンだって音で分かってたから吃驚することはなかったけど。最近、譜術の練習をしてるんだけど、気配じゃなくて固有振動数で人を判断できるようになった。音素とは少し違う感じなんだけど、人それぞれで振動数が違うんだよな。譜術は味方識別 が必要だから、自然と習得した技だ。アッシュ経由でジェイドが言ってたけど、ローレライとほぼ同化してるからできるのだろうと言ってた。 まぁ、人混みとかだと振動数が混ざって分かんないんだけどな。そういう時は普通に気配を読み取るようにしてるんだけど、レイヴンとかだと気配消してたりするから、街中などでは吃驚するんだけど。 あまり驚かなくなったからか、つまらないとか言ってたけど、それは無視だ、無視。俺は悪くない…と思う。


「武醒魔導器が使えなくなった今、ルークが重宝されるのは分かるけど、頼り過ぎよ」

「私もこれはやり過ぎだと思うのですが…上が至急でと」

「フレンはどうしたよ?」

「フレンなら、今、ヨーデル殿下の護衛でノードポリカに行ってるぜ。その後、オルニオンにも行くってさ」


確か、ソディアとかも任務で離れてた筈だから、今仕切ってるのはフレンの小隊の誰かだった筈だけど…にしても、顎を俺の肩に乗せた状態で後ろから覗き込んでくるから、髪がくすぐったいんだよ な。てか、腰に回された手が気になる…人前でやめろって言っても無駄だから、騎士団内では注意しなくなったんだけど。今度、リタに相談しておこうかな。


「あー…分かった。後は俺が調整するように言っておくから、もう仕事戻っていいわ」

「はっ!失礼します」


騎士は一礼すると戻っていった。いつ見ても騎士たちの敬礼はしっかりしてるよな。俺も練習はしてるんだけど、どうも決まらないから悩みものだ。そもそも、礼をする機会が少ないけれども。評議会の人たちの前ぐらいでしかやらないし。


「あ、そうだ…おかえり、レイヴン」

「ん、ただいま」


おかえりって言ったら、返事と一緒にキスされた。誰もいなくても恥ずかしいんだけど、嬉しいとは思う。誰かの帰る場所になれて、俺も帰る場所があって…でも、結局は恥ずかしさに負けて、つい文句を言っちゃうんだけど。


「廊下でキスすんなっつーの! 誰かきたらどうすんだよ」

「大丈夫よー。恥ずかしがってる可愛いルークは俺だけのものだから」

「意味わかんヌェーよ! とりあえず、離れろ!」

「久しぶりなんだから、ルー君不足なの。おっさん、もう死にそうで死にそうで」


死にそうっつーのは大袈裟だけど、寂しいって思ってくれてたのかな。俺も、久しぶりに逢えて嬉しいんだけどさ。


「と、とりあえず、部屋に行こうぜ。コーヒーにするか?」

「甘くなければ何でもいいわよー」

「なら、紅茶でもいいか? この前、任務先で美味い茶葉もらったからさ」


部屋に入ればレイヴンはやっと離れて、荷物を下ろしていた。俺は部屋に隣接してるキッチンでお湯を沸かし始めた。まぁ、簡易のキッチンだから広さはないし、扉もないけれど。湯沸かしとかはリタの提案で、魔導器の代わりとして使えるか実験させられているのだけども。そういえば、今度、定期報告の日があったような。任務の時に会えたらいいんだけど。


「ルー君」

「ん?」

「ちょっと報告してきて、仕事取ってくるから、待っててねー」

「執務室の方でやらないのか?」

「ルー君の寝顔を堪能しながら作業しようかと思ってね」

「は?」


レイヴンはキッチンに顔を出すと、意味不明な言葉を残して部屋を出て行った。俺の寝顔が何だって? 堪能? 書類の方見てろよってーか、俺、寝るの決定事項なのか? 仮眠をとることはレイヴンには言ってなかった筈だ けど…少し考えながらも、丁度お茶の準備ができたところでレイヴンが戻ってきた。本当に部屋でやるつもりなのか、その手には書類の束があった。


「はい、ルー君の今度の任務ね」

「帝都とノール港だけ? 別に俺は他も大丈夫だぜ?」


レイヴンから手渡された書類を受け取ると、そこに書かれていたのは先程のより短くて、帝都周辺とノール港周辺の魔物退治だけになってい た。多分、俺を気遣って調整してきてくれたんだと思うんだけど、申し訳なさもあるし…最大の問題点は2つの任務が終わったら長期休暇になることだ。ユーリたちに会いにいけるから嬉しいんだけど、ひと月は長過ぎる気がする。


「ルー君は無理し過ぎよ。それに、半分は嫌がらせだったからねー。必要なのは帝都とノールとオルニオンだけね。オルニオンはフレンがい るし」

「そっか…でも、この長期休暇は?」

「おっさんも一緒に行くからねー。それが終わったら、ちょっと旅行でもしよっか」

「え、でも、仕事は?」

「ギルドの方は任せてきたし、騎士団もこれで落ち着くからね。おっさんがいなくても大丈夫でしょ」


レイヴンはそう言うと、書類を机の上に置いてからベッドに座った。仕事を持ってきたにしても、すぐにやるつもりはないようだ。執務用の机だから茶をしながら仕事できる広さもあるし、椅子も2つ置いてあるのだけど。でも、お 茶の時はサイドテーブルに茶菓子とかを置いて、ベッドに並んで座ることが多い。俺も受け取った書類を机上に置いて、服を着崩してからレイヴンの横に座った。騎士団内で仕事をする時は支給された制服を着てるのだけども、腰あ たりに二重のベルトをつけてて、普段は剣を装着してるから必要なんだけど、私室内では外してる。茶を淹れる前に剣本体は外したし、私室ぐらいゆったりと過ごしたいからな。でも、制服はシュヴァーンの服と少し似てるからお気に入りなのだけども。流石に鉄靴や肩甲などは動きにくいから断ったけどな。紅茶を飲みながら、お互いに簡単に近況報告をして、それが終わるぐらいには茶も飲み終え た。カップをキッチンに置いて部屋に戻れば、レイヴンがベッドの上で足を伸ばしながら手招きしてた。


「レイヴンも寝るのか?」

「んー」


はっきりしない返事を返されて首を傾げたけど、レイヴンが自分の隣を叩くからベッドに乗り込めば、一気に視界が変わった。一瞬何が起こったのか理解できなくて…でも、レイヴンの顔とその背後に天井が見えたことを認識すれば、押し倒されたのだと分かった。理解した途端、恥ずかしさとか、容易に押し倒された悔しさとか、己の間抜けさとか…ほんの少しの嬉しさとか…色々な感情が混ざり合うけど、多分顔は真っ赤になってんだろう。一瞬だけ見せた勝ち誇ったような微笑みがカッコ良かったと思ったのは秘密だからな!


「ルー君はもうちょっと警戒心を持つべきねー」

「るっせー…別にレイヴンだから必要ねーじゃん」

「男は皆、狼なのよ」

「俺も男だっつーの」


少し剥れていたら、レイヴンは苦笑しながらも手を伸ばしてきて…頬を撫でたと思ったら前髪をあげて額にキスしてきた。それから瞼とか頬とかに軽く触れるだけのキスを落として、最後に唇に触れるだけのキス。戯れるような行為は擽ったいし恥ずかしいけど、何故か安心できるし、嬉しいとも思う。俺が笑ったからか、レイヴンも笑ってくれた。レイヴンが笑うのは好きだし、何だか胸の辺りが温かくなる感じがして、恥ずかしさとかも吹っ飛んじゃうぐらいに嬉しい。


「ルーク?」

「ほら、レイヴンも寝るだろ? 起きたら少し散歩しようぜ」


レイヴンに手を伸ばして、髪留めを外せば落ちる髪。シュヴァーンのような髪型になるけど、結ってたからか少し撥ねてた。それを手櫛で直せば、苦笑してから俺の上から横に転がった。足元に置いてた掛け布団を器用に足で引き寄せて掛けてくれた。


「おっさん、お仕事しようかと思ってたのに」

「ルブランたちが、隊長なら2、3時間もあれば終わる量って言ってたし…レイヴンのことだから早く帰ってきてるだろ? ちゃんと休憩しろっつーの」

「それをルークが言うかね」


仕事しようといいながらも俺を引き寄せてるあたり、仕事をするつもりはないんだろうと思う。それに、昼前に帰ってくるってことは、朝早くからジュディスに頼んで乗せてきてもらったんだろう。夜も遅くに寝るから睡眠時間も短 いだろうし。慣れと言えば慣れなのかもしれないけど、心配ぐらいしてもいいだろ?  俺がって言われると言い返せないから、少し勢いをつけて胸元に飛び込めば、ちょっとだけ息を詰まらせるような声がした。大袈裟に反応してるって分かるし、横になってるからって俺より少し頭を上にしてるから、ちょっとした反抗だ。身長差がないから普段は目線が一緒だけど、寝るときは差をつけようとするのには少し複雑だ。嫌じゃないけどさ。


「おやすみ、ルーク」


そう言いながら頭を撫でてくれて、抱きしめるように背にしっかり腕を回してくれて、すぐに眠気がやってきた。まぁ、昨夜は夜警してたしな。でも、おやすみだけは言いたかったから、服の上から心臓魔導器に唇で触れてからおやすみって返して意識を手放した。


「…相変わらず、生殺しよね」


そんな呟きが頭上から落ちてきたけど、眠ってしまった俺が知る由もなかった。



『繋いで、紡ぐ』

(その音すらも温かく感じれて)










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儚風さまより頂いた相互記念作品です。
ああもう、たまりません……!
レイルクっ! レイルクきた!
レイヴンは生殺し状態基本ですか!(笑)
分かります、とても!
ありがとうございます……!

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