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□Chi si contenta gode.
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こぽりと浮かぶ。こぽりこぽりと泡立つように漏れ出る感情。
無数の気泡と化し心を波立たせる苛立ち。
XANXUSは己の中に溢れる感情のままに苛立ちをぶつけるように、近くに置いてあるグラスを投げようと手を振り上げ、しかし止めた。
投げ付けるべき相手がいない。
XANXUSの感情を動かし苛立たせ、それを唯一宥めることのできる銀の鮫。
彼の騒がしく優しい声が、全身で表す愛しさを伝える腕が、XANXUSのものだと主張する美しい銀の髪が、XANXUSの心を満たし、安定させるのに。
その姿が見えないだけで苛々する。不安になる。
スクアーロに任務を命じたのは確かにXANXUSなのだけれども。
彼の銀の鮫には簡単な物だった筈で。
こんなに長い間離れるなんて思わなかった。
「何、やってんだ、よ…あのドカス…」
溢れる苛立ちを口にしたつもりがその呟きは震えるように小さくて力無く、振り上げた腕からも力が抜けてしまう。
XANXUSはグラスをテーブルに戻すと、腰かけているソファに深く座り直し、自らを守るように腕を組んだ。
そして嫌な現実から意識を背けるようにきつく目を瞑り、今にも水分に沈もうとしていた紅玉を隠す。
夜は怖くて眠れなくなっていたが、太陽の光が柔らかく包む昼間なら寝ることができそうな気がした。


本当に簡単な任務の筈だった。
スクアーロに与えたのは裏切り者の抹殺。ボンゴレの末端に属す振りをして敵対するマフィアに情報を漏らし金を得ていた。
末端だから漏れ出した情報は些細な物だが、裏切り者を見過ごしたとなるとボンゴレの誇りに傷が付く。
10代目の座を継いだ若きドン・ボンゴレは見せしめの意味も込めて暗殺部隊ヴァリアーに依頼した。
裏切り者には死の報復が待っている。どんな小さなことでも見逃さない。
派手な暗殺というのもおかしな話だが、そうと分からなくては意味が無い。
なるべく派手に分かり易く、残忍に。
弱い格下を相手に、複雑な策を労する必要も無く、ただ標的を殺してくるだけの任務だ。
剣帝の名を轟かせているXANXUSの銀の鮫は己の冠する称号のままに傲慢な笑みを浮かべ遊びにでも行くように出かけて行った。
その日の内には戻る予定だった。晩飯には間に合うと言っていた。
しかし夜中を過ぎてもスクアーロは帰って来なかった。
次の日にはルッスーリアが騒いだが、XANXUSは揺れる己の心を抑えて平静を保って見せた。
3日目には綱吉から気遣いの連絡が入った。これにもXANXUSは強がって何でも無い様を装い、カスのことなど少しも気にしていない振りをした。
5日目には幹部達が本格的に心配の気配を滲ませ、XANXUSは夜の冷たさを恐ろしく感じ始めた。
10日経った頃にはもはや誰もXANXUSにスクアーロの話題を触れさせなくなった。XANXUSが夜に全く眠れていない様子なのは明らかだったからだ。
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