短編

□一番は
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「誕生日、おめでとう!」



「どーも、」



不機嫌極まりない声で言ったのに目の前の女子は頬を真っ赤に染めてきゃあきゃあ言いながら俺の前から去っていく。
全く、今日で何度目だろう溜め息を吐くのは。
恐らく、この学校で俺が不機嫌なのに気がついている人なんていないだろう、気づきもしない。
‥‥いや、いるかもしれない、これは願望なのだけれど。いて欲しいそれはたった1人だけでいいのだ。
今頃友達と話をしているのだろうか、もしかして男と話していたりなんていないだろうか。
そんな気持ちをぐるぐると渦巻いたまま部活をしてしまい集中力に欠けると部長から外周を言い渡されたのだった。

先輩にもどやされ、また溜め息。
そして帰ろうとしたとき呼び止められた。その言葉に俺は荷物をひっつかんで校門へと走った。
しかし校門から見えた影で落胆する、そこには長い三つ編みが見えたからだ──あいつじゃない。

長い三つ編みの女子、竜崎はまた顔を真っ赤にさせながら何度と言われた言葉を吐いた。


「‥葵は?」



「えっ?」


「一緒のクラスだったよね?まさかもう帰ったとか?」




竜崎は思ってもいなかった言葉が返って来て吃驚したのか言葉を発しない。
もういい、何もかもどうでもよくなった時ぺしり、と頭を軽く叩かれた。




『折角お祝いしてもらったのになによその態度は!』



それは今日ずっと聞きたくて仕方がなかった声、振り返ると俺の彼女の小林葵がいた。腰に手を当てて口を尖らせ怒っている顔をしていた。
けれど、俺にはそんな事どうだっていい。
姿を確認したら今まで抱えていたもやもやは一気に吹き飛び背中に手を回して抱きしめた。



『ちょ、リョーマくん!?
くすぐったいよ〜』



文句なんて聞かない、今までどこにいたのだ本当なら一番に会いたかった人。
頬を擦りつけながらそのシトラスの匂いを嗅いだ。




「‥‥ばか」



『彼女の第一声がそれ?』


「なんで今日会いに来なかったんだよ?」



『ん〜なんででしょうか?』


「聞いているのはこっちなんだけど?」




質問を質問で返す。けれどこのゼロ距離は保ったまま。いつの間にか校門の前には俺たちしかいなかった。そんなことどうだっていいけれど。


『今日さ、祝日じゃないじゃん。
だから一番は無理だと思ったから』



一体何が言いたいのだろう、そんな俺の心を読んだのかくすくすと笑い声が聞こえた。
腹なんて立たない、声が聞こえるだけで姿が見えるだけでそれだけで俺は満足してしまうのだ。



『私もだけど、リョーマくん私のことすっごい好きだよね』



「当たり前じゃん」



『いいの?いつ人が来るかわからないんだよ、王子様のこんな姿みせちゃって』



「気にしない」




それより、と俺は待っていた。
今日、ずっと待っていた言葉を。こうやって俺を焦らすのも葵は得意だ。
それが嫌ではなく寧ろそんなところも好きだったりするけれど。




『‥一番に会って言うことはできないから、一番最後に会って言おうかと思ってたんだ』




その方が何倍も嬉しいでしょ?ときっと悪戯が成功した子どもの顔をしているんだろう。
確かに毎年訪れる誕生日、イエス・キリストの前の日の誕生日。
こんなにうずうずしたのは、こんなにも誕生日が特別だと思ったのは初めてのことだ。
なんだか、手のひらで転がされているようだななんて思ったけれど。
その相手が葵ならいい、それ以外のやつだったら許さない。




『もう、こんな時間だから私が最後だよね会う人は』



冷たい手を俺の腕に移してゼロ距離が、シトラスの香りが離れた。
寒さからか恥ずかしさからかなのかマフラーから覗く顔が朱色に染まっていた。




「言って、早く葵の言葉と声で」



早く、早く。と心臓がどくどくと脈打つ、口の中が喉が渇く。
そして少しの間を置いて飛び切りの笑顔で俺の好きな声で言ったのだ。







『リョーマくん、誕生日おめでとう!!』





happy birthday ryoma




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