短編

□影想い
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最初の印象はいい人なんだろうな、だった。


初めてキミを見た日は雨が降っていてボクは青峰くんを待っていて。
隣の女子が傘がないと騒いでいてそこに現れたキミは置き傘があるからと自分の折りたたみ傘をかばんから出して差し出した。

明日返すから、と告げて女子生徒は去っていきキミはその姿が見えなくなると自分のかばんを頭に持っていってパシャパシャと水溜りを踏み走り去った。


次に思ったのはいい匂いがする、だった。
移動教室ですれ違ったときに気がついた。
その匂いがシャンプーなのか柔軟剤からなのか分からないけれどすごく安心できる匂いだった。




それからしばらくして、バスケ部の練習を観戦してることに気がついて。
気がつくと、気になって。
目で追っている自分がいた。


怪我をした人に絆創膏を渡したり。
誰も世話をしていない花壇に水を上げていたり。
先生に頼まれた雑用を進んで請け負ったり。
見ているこっちが冷や冷やするぐらい大きな荷物を抱えて廊下を歩いていた姿を何度も目撃した。


一度だけ、桃井さんがキミに話しかけているのを見て。
桃井さんにキミの名前を聞いてボクは初めてキミの名前を知った。
その日、何度も何度もキミの名前を心の中で繰り返し繰り返し呼んだ。




そんな日々が続いてたある冬の部活終わり。
校門のところにキミの姿があった。
鼻を真っ赤にしてマフラーに顔を埋めて誰かを待っているようだった。
そう思ったら急に心がもやもやして。
気がついたら初めてキミの名前をキミに向かって呼んだ。

キミは吃驚して目を丸くしてボクをみて。
当たり前だ、ボクはキミを知っているけれど。
キミがボクを知っていることなんてないに等しかったからだ。
それなのに、吃驚した顔の中に嬉しそうな表情もあって。
もやもやしていた心がじわりじわりと温かくなる。


そんなこそばゆい空気の中ボクを呼ぶ青峰くんの声。
キミが青峰くんなんて呼ぶからちょっと青峰くんにやきもちを勝手に焼いてしまったのだ。



青峰くんにキミに促され、青峰くんのところに行く前にキミに言葉をかける。
そしたらキミは首が取れそうな勢いで頷くからちょっと面白かった。




「───っ」




びゅう、と風が吹いて後ろでなにか聞こえた気がしたがボクの耳には届かなかった。









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