All The Way
□All The Way
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白い波が打ち寄せる甲板。
空は久しぶりに真っ青に澄んでいて雲一つなく、珍しい程に天気が良い昼下がりのことだった。
そこには、二人の乗客がいた。
一人は、サラサラした茶髪、ダークブラウンの瞳が綺麗の美貌の少年だった。
甲板の手摺りに肘をついて、髪が乱れるのも構わずにただサファイアのような海を楽しそうに眺めている。
もう一人は、漆黒の髪、闇を思わすくらい黒い瞳が印象的な、上品な顔立ちの少年だった。
黒い髪の少年は船内から甲板に出て来て、茶髪の少年から少し離れた所で同じ様に肘をついて海を眺めている。
しばらく、二人の少年は無言で海を眺めていた。
船の側面にあたる水しぶきの音や、引いてはかえす海の音が耳に心地良い。
太陽の光を受けてキラキラと輝いている海面から顔を上げると、まるでここがこの地の果てなのだという錯覚を思わせる水平線が目に入った。
青い海に映える白い客船はゆっくりと流れる時間に沿って海を突き進んでいく。
最初に沈黙を破ったのは茶髪の少年だった。
「海、好きなんですか?」
不意に、茶髪の少年は歌うような口調で少し離れた所で自分と同じように海を眺めている黒髪の少年に話し掛けた。
掴みどころのない、綺麗な話し方だった。
「別に。好きでもないしキライでもない」
黒髪の少年は、迷惑だと声に滲ませるように吐き捨てるように言い放つ。
茶髪の少年は、そんな彼の態度に嫌な顔一つせず、少し頬を緩めた。
「気が合いませんね」
茶髪の少年は面白そうにクスクス笑った。
潮風がそっと吹いて二人の間をすり抜ける。
「‥旅、してんのか?」
黒髪の少年の質問に、茶髪の少年は小さく笑って「まぁ、そんなとこですね」と曖昧に答えた。
そして、茶髪の少年は瞳を海に向けたまま深い笑みを浮かべながらよく通る声で聞いた。
「どうしてそう思ったんです?」
黒髪の少年は軽く肩をすくめると、顔を水平線に向けまま淡々と答えた。
「何となく」
茶髪の少年はそれを聞くと、称賛するようにヒューッと口笛を吹いた。
「観察力凄いですね。ってことは、旅人じゃないでしょ?」
黒髪の少年は、間髪を入れずに質問されて少し戸惑った様子だったが、たがてゆっくりと首を縦に振った。
「服装でピンときました」
茶髪の少年はサラリと言い放つ。
「綺麗な海ですね」
茶髪の少年が歌うように言った。
風のような話し方だった、と黒髪の少年は思った。
「あぁ、今は」
「あ、ひょっとして海キライですか?あ、これ、さっきも言いましたね」
茶髪の少年は自分の失言に可笑しそうケラケラと笑う。
「僕はキラキラしてて宝石みたいに輝いてる所が好きですね。一つも同じ表情がない」
黒髪の少年は沈黙で肯定する。
「海、どうして嫌いなんですか?」
黒髪の少年は少し迷惑そうに顔をしかめたが、軽く肩をすくめてみせた。
「苦い思い出があるからさ」