夢の先へ

託したもの
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きっと皆心配しているから、と、ディオニシュに手を引かれ俺は帰路へと着いた。ウォーリア辺りは何かキツい事言ってきそうだ、とは思ったが、これも全ては俺の力量不足が原因だ。


「(…ディオニシュまで泣かせてしまったし。)」


ディオニシュが何について謝って、何について涙を流していたのかは分からない。ただ彼女は俺の知り得ない大きな何かを抱えて生きているんだろう。それくらいは、さすがの俺でも察知できた。好きなコに助けられるというのは男としていささか恥ずかしいものがあったが、何よりディオニシュが目の前にいてくれたことは嬉しかった。しかし…。


「何でディオニシュは、一人で助けに来てくれたんだ?」
『…………え?』
「いや、危ないとは思わなかったのか?さすがにさ。」
『…私じゃなきゃ、駄目だったから。』
「え?」
『いやぁ、無我夢中ってやつだったから。』


何となくそこが気になり、俺は少し後ろを歩いていたディオニシュを振り返って言った。ディオニシュは不意打ちを喰らったように目を瞬かせたが、確かに俺はディオニシュが来てくれたことが嬉しかった。

だけど、いくらディオニシュが凄い力を秘めた神子とはいえ、何かあったら大変だった。自らを顧みず何かに向かっていくのは、俺達の特徴でもあり欠点でもある気もする。


『―――人を助けるのに理由なんていらない。皆そう言うでしょ?それだけだよ。』


いろいろ考え込む俺の隣で ディオニシュはそう微笑んだ。…まぁ、そう言われれば、だな。人を助けるのに理由なんていらないんだ。それがこの世の正しい、あるべき姿だと俺は思ってる。いちいち理由を求めて動くなんて、俺のようなタイプには一番考えられない事だから。



『…命が助かったんだから、何だっていいじゃん!死んでしまったら花実は咲かないんだよ?』
「…あぁ…そうだな。ありがとう、ディオニシュ。」
『どういたしまして。』


さっきまで涙を浮かべていたディオニシュの瞳にはもう涙の膜は張っていなかった。
そこにあるのは相変わらず吸い込まれそうなほど綺麗に透き通った瞳で、俺はその瞳を見る度心が焦がれる。俺はディオニシュの瞳にすら、惹かれているんだ。

そんな時、ディオニシュはふと俺を呼び止めて、袖口から何かを取り出した。



「何だ?ディオニシュ」
『何だ?じゃないよ。の、ば、ら。返すよ。キミの大切なものでしょう?』
「あぁ……」


ディオニシュが俺に差し出したのは、一輪ののばら。ディオニシュがセフィロスから取り戻してくれた、俺の大切な夢。俺はのばらを受け取ろうと手を伸ばしたが、途中でそれを引っ込めた。


「やっぱり、いい。」
『フリオニール?』


俺は不思議そうに首を傾げるディオニシュの腕を握り、ゆっくりと目を閉じる。


「それは、ディオニシュが持っていてくれ。ディオニシュにやる。」
『えっ、でもこれはキミの夢なんじゃ、』
「いいんだ。俺にはもう一つ夢が見つかったから。それにこういうのは男の俺が持っているより、ディオニシュみたいなコが持ってる方が似合う。」
『フ、フリオニール…』
「だから、な。」


ディオニシュの手に軽くのばらを握らせる。ディオニシュは戸惑うようにあたふたとしていたが、俺が微笑んで言えば恥ずかしそうに顔を赤くした。


『で、でも、やっぱり私には…あ、そうだ、』
「?」


ディオニシュはのばらを包み込むように握ると、

俺を見上げて口を開いた。

『これは預かっておくよ。もし私達が生きて元の世界に帰れる日が来たら…その時、フリオニールに返す。それならいいよね?』
「そうだな…そうしようか。」


ディオニシュがのばら片手に笑顔でそう言ったから 俺も笑顔で返したけれど。本当は。


「(本当は、ディオニシュを連れていきたい。)」


そう、皆バラバラの所に帰ってしまうけれど、俺は…

叶わない夢と知っていて願うのは、愚かな事なのだろうか。


「…帰るか、ディオニシュ。」
『うん。皆待ってるだろうからね。』


愚かな事なら、俺はこののばらに願いを託す。その願いがディオニシュの元にあることで きっと良い方向へ進むだろうから。

我ながら女々しいかもしれないと思ったけれど、この時の俺にはこれが最善の願掛けだと思ったんだ。


『…あ、そうだ。フリオニールのもう一つの夢って?』
「え!っと、そ、その、」
『あ、やっぱり秘密ってやつ?』
「そ、そう。秘密だ!」





(君がこの願いを知った時
果たしてそれは叶っているのだろうか)



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