夢の先へ

束の間の安息
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見上げた空には雲が流れ、まさしく秩序ある空間にいるというのを実感する。


「ふぅ……」
『あ、フリオニール、溜め息なんてすると 幸せが逃げるよ?』

最近はいろいろあった。溜め息の一つもしたくなるのがフリオニールの本音なのだろう。深く息を吐いたフリオニールにディオニシュはそう投げたが、フリオニールはディオニシュに微笑を向けた。

「大丈夫、俺はディオニシュと一緒にいられるだけで幸せだから。」
『!そ、そう?それなら構わないんだけど…』
「あぁ。」

熱血漢で生真面目なのに、フリオニールは時折クサいほど真っ直ぐな言葉を口にする。だが飾らない言葉というのは何よりも心に響くもので、さすがのディオニシュも顔を赤らめ、照れを隠すように背を向けた。
ふわりとディオニシュの柔らかな後ろ髪の香りが、フリオニールの鼻を掠める。

「…そういえばさ。」
『ん?なに?』
「ディオニシュって髪、伸びたよな。」
『そう…?そんな気はしないけど、』
「いいや、伸びた。前はもっと短かったぞ。」

ディオニシュがフリオニールを振り向けば、彼は真っ直ぐに自分を見つめていて、たかが髪の長さの話なのに、ディオニシュは何故か心臓を大きく跳ねさせた。
高まる鼓動を抑えるように、…たかが髪の話で そこまで真剣な眼差しを向けるフリオニールが悪い、と毒づいて。

『私がキミと出逢ってどれくらい経ったと思ってるの?これだけ生きてれば、髪だって伸びるよ。第一、フリオニールだってかなり伸びた。』
「え、そうかな?自分じゃ分からないものだな…」
『でしょ?…それに、髪の毛一つだって、長さが変われば生きてる証に繋がるんだよ。私はそう感じてる。』
「ディオニシュ……」

髪の毛で生を語るディオニシュに、フリオニールは不思議なまでに新鮮さを感じた。少なくとも今まで、そんな些細なことに生を感じる人に出逢ったことがないからだろう。
そう考えればディオニシュは誰よりも生を大事にしていて、生きることに敏感で。フリオニールは複雑な思いを胸に抱きながらも、ゆっくりと立ち上がってディオニシュの髪を撫でた。

「綺麗な髪だな。細くて柔らかい。」
『フリオニールの髪だって綺麗だよ?日の光でキラキラして、』
「そうか?髪を褒められたのなんて、初めてだな。今まではあんまり気にしてなかった。」
『じゃあ、これからはお手入れにも気を配ってあげてね。大事な体の一部なんだから。何より、ちゃんと手入れしないと将来的に不安を感じるし。』
「…それは将来的にハゲるってことか?」
『自然現象には逆らえないんだよ、フリオニール。』
「お、俺が将来確実にハゲるみたいに言うな!」

…そう、今はロン毛でふさふさなフリオニールでも、将来的にはどうなるのか分からないのだ。もしかしたら、いつか髪が薄くなって 育毛剤の力に頼らざるを得ない日が訪れるかもしれない…そう思うと、フリオニールはゴクリと生唾を飲んでしまった。

『ま、君みたいな若い人が気にすることじゃないと思うけどね。』
「?ディオニシュだって十分若いだろ。」
『そう?そう見えるなら有り難いけど。』
「………?」


流れる雲が細くなり、いつしか姿を消していた。代わりに空には晴天が広がり、日の光がキラキラと二人を照らす。太陽すらも微笑むような光景は、まさしく秩序そのものだった―――。


(この秩序ある幸せが、いつまでも続かんことを。)








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軽い番外編、そして実は神子はフリオニールよりも歳上なんだよ!という流れへの伏線。
神子の髪は(いろいろあって)日々長さが変わってます。そういう話。別にフリオニールが連載の中でハゲるっていう話の伏線とかじゃありません。


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