夢の先へ

俺の持たぬ物
1ページ/1ページ


"コスモスは敗れた"


彼がそう告げたとき、みんなの表情から色が消えた。コスモスが敗れた?じゃあ俺達は一体どうすれば。そう言いたげな顔だった。










「コスモスがクリスタルを探せと言っている。それが、世界を救う希望だと」









"クリスタル"


それはあまりにも抽象的で、あまりにも頭に描きにくい響きだった。それでも彼を含め、みんな世界のためにと立ち上がった。クリスタルを手に入れ、世界を混沌の闇から救う。
新たな、途方もない旅の始まりだ。



























「お前達は、何のために戦うんだ?こんな状況でも戦える理由があるのなら、教えてほしい」




ある時、クラウドは足を止め 俺達にそう投げ掛けた。
"戦える理由"なんて今まで考えたこともなくて、俺達はクラウドの問いに誰一人答えを見いだせずにいた。理由もなくがむしゃらに戦うだけじゃダメなんだ。そう思い知らされたような気がする。






















『…死にたくないから』
「………、」



重い静寂の中、俺の後ろにいたディオニシュがそう呟いた。その声にみんなが振り向きディオニシュを見る。ディオニシュはどこを見るでもなく、ただ遠くを見つめていた。










『死にたくないから、戦う。クリスタルを手にしたって命が無くては意味がないもの。それが、私の戦う理由』
「ディオニシュ……」








"死にたくないから戦う"


それはとても強くて、今までの言葉のどれよりも心に突き刺さるものだった。そうだ、俺達は結局 死にたくないから戦っているんじゃないのか。
世界が混沌に落ちれば死ぬ。敵に敗ければ死ぬ。だから勝って、生き残るために戦う。
だけどその理由は当たり前すぎて、俺達は誰一人それに気付くことが出来なかったんだ。












『……あ、ごめん。余計なこと言って』
「いや、ディオニシュはそれでいい」
「うん、なかなか納得させられる言葉だったよ」
「オレには難しくてよく分からなかったッス」













「(……俺は、)」




仲間達に囲まれて 申し訳なさそうに苦笑するディオニシュを見て 俺は一人厚い雲に覆われた空を仰いだ。
ふと彼女を見れば、その表情はあどけないものだったけど、俺はさっき 語る彼女の瞳にとても強い意志の色を見た。
それはきっと 俺にはない物。俺にはない、強い強い、何か。










「俺も、見つけなきゃな。戦う理由」







自分に言い聞かせるように呟いて、俺はディオニシュの元へと駆けていった。

君にあって、俺にない物。それは。







.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ