夢の先へ

理由
1ページ/1ページ


戦士として戦う以上、戦う理由が必要だった。人形だ、なんて言われもしたが、誰だって理由がないとやっていけないだろ?
彼女――ディオニシュは、死にたくないから、生き残りたいから戦う、と言っていた。俺はそれが理由でもいいと思ったし、むしろうらやましくも思えた。ディオニシュにはディオニシュなりにしっかりとした理由があるのだから。

…それに比べ、俺は?戦う理由を求めれば求めるほど、それはどんどん遠ざかっていく気がする。
その事実が悲しくて情けなくて、俺は仲間達とは話せてもディオニシュに会わせる顔がなかった。






『―――ール、フリオニール、』
「………!あ、あぁ、ディオニシュか、何だ?」
『いや、その…大丈夫?気分でも悪いなら…』
「だ、大丈夫!俺は元気だから」
『そう?ならいいんだけど…』







…焦った。俺は相当深刻な顔で考え事をしていたらしく、ディオニシュから見れば体調の悪い人間に見えたらしい。いつの間にか隣で俺の顔を覗き込んでいたディオニシュと目が合って、俺は慌てて笑顔を繕った。








『…もしかして、気にしてる?』
「?」
『戦う理由』
「……!」







ディオニシュの言葉に、俺は目を大きくして反応を示してしまった。…我ながらこの分かりやすい性格がイヤになる。ディオニシュはそんな俺の心中を察したのか、苦笑を浮かべ曇天の空を見上げた。








『フリオニールは強いから、理由なんていらないと思うよ?まぁカッコよく言うなら…大切な人を守りたい!とか、世界を混沌から救うんだ!とか、そういう簡単なのでいいと思う』
「……簡単な、理由…」
『そう、理由は単純かつ明快な方がいいよ。その方が忘れないだろうし』







ディオニシュが拳を突き上げて声をあげると、俺は初めて聞くディオニシュの大きな声に一瞬驚いたが、すぐさまそれは笑顔へと変わった。俺を元気付けるためだったのだろうが、彼女の頬は少しだけ気恥ずかしそうに赤らんでいた。そんなディオニシュの言動がちょっとだけ意外で、ちょっとだけ可愛らしかった。(いや、実際はかなり可愛かったが)






















「そうだよな、理由は簡単なものでいい。
…決めたよディオニシュ。俺は、俺の夢のために戦う。みんなが平和に、仲良く笑って暮らせる世界…のばらの咲く世界を作るために、戦う」







…こんな子供みたいな夢、誰にも告げないと決めていたのに。何故だろう。ディオニシュにだけは知ってもらいたかった。俺の抱いている夢とか、想いとか。

沸いてきた少しばかりの恥ずかしさに、ディオニシュに背を向けて誤魔化せば、ディオニシュの優しく微笑む声が聞こえる。







『のばらの咲く世界、か…素敵だね、きっと叶うよ、フリオニールの夢』
「そ、そうか?ありがとう…」





背中越しの優しい声音がもどかしくて、俺は照れ笑いを浮かべながらディオニシュを振り向いた。(この歳で照れ笑いなんて)

…女性の笑顔というのは、こんなにも輝かしいものなのか?

ディオニシュが神子だからか、はたまた俺が女性慣れしていないからか。
どっちにしても、俺に向けられるディオニシュの笑顔が、何より俺には勿体無さ過ぎる気がした。













『みんなのところに戻ろっか』
「あ、あぁ!」







動揺を隠しきれない俺を尻目に、少し速いスピードで駆け出したディオニシュ。慌てて後を追えば、彼女は悪戯な笑みを浮かべて笑いかけた。





…のばら咲く世界。出来ればその世界を君と一緒に見たいんだ、なんて、言えるわけもない。









「(…それでも、俺は)」





見つけたんだ。戦う理由を。
俺は、夢を叶えるために。そしてディオニシュを守るために……









「絶対に、死ねないな」







死ねない理由も同時にできたよ。








.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ