夢の先へ

温もり
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「…さて、そろそろ寝るか。」


昼間の喧騒も過ぎ去り、一日の中で一番落ち着けるのは夜。
前は独りぼっちで寂しかったけれど、とディオニシュが言っていたのを思い出し、俺は何だか胸が締め付けられた。
俺はコテージの中の寝袋に入り、暗闇を照らすランプに手を伸ばす。


『……フリオニール、ちょっといい?』


灯を消す直前、コテージの外から俺を呼ぶ声が聞こえた。…ディオニシュだ。眠りにつくため静かだった俺の鼓動が、少しだけ高くなる。


「ディオニシュ…?どうした?」
『ちょっと、眠れなくて』
「そうか…まぁ、入れよ」


一人用なのであまり広くないコテージだが、ディオニシュは小柄だから窮屈感はない。むしろ広々とした空間に変わった気がしたのは、俺の気持ちの問題なのか。
俺の隣に座ったディオニシュの瞳は、どこか寂しげに揺れていた。



『ごめんね、いきなり』
「構わない。それより、大丈夫か?」
『え?』
「泣きそうな、顔してるぞ」


…いくら俺でも、それくらいは分かる。そう小さく呟いてやると、ディオニシュは少しだけ目を大きくした。


『…ふ、フリオニールもなかなか侮れないね』
「それはどうも」


ディオニシュはクスクスと笑い、俺にもたれ掛かって心臓に耳を寄せた。…ただでさえ心拍数が上がっているのに、これでは。


『…フリオニール、鼓動速すぎ。病気?』
「なっ、失礼だな」
『あはは、冗談ー』


…病気、というのはあながち間違ってはいないかもしれない。俺がディオニシュを病的なまでに好き、ということに関しては。

悪戯な笑みを浮かべるディオニシュは、口を尖らさせる俺の手を握り、不意に自分の胸へと引き寄せた。
…目が、飛び出るかと思った。


「なっ、お、おい、ディオニシュっ?」
『分かる?私も、こんなに心拍数上がって…フリオニールと同じだね』
「…あ、あぁ」



手のひら越しに、少し速めの鼓動が伝わる。俺のと同じか少し速いくらいのそれは、どこか俺の心を落ち着かせた。



『…心音は、生きてる証。フリオニールを好き…な証、でもあるかも、ね』
「ディオニシュ……っ、」
『ふふ、顔が赤いよ』
「なっ!」




肩を跳ねさせる俺を見て、ディオニシュはごめんごめんと笑いながら言った。…まったく、俺は遊ばれてるのか?




『…フリオニールといると、不安を感じなくなるよ。私これでも神子なのに…情けないね』
「そ、そんなことないさ。不安に感じることがあれば、俺が何でも相談に乗るから」



ランプの灯りが消えかけて、ディオニシュの横顔がとても儚げに見えた。手を放したら消えてしまいそうで、俺は強く彼女の手を握った。…俺は知ってるんだ。ディオニシュがいつも暗闇で泣いていることを。俺がいることでそれが無くなるなら、本望だから。ディオニシュの力になりたいと思えたのは、優しい笑顔の中にどこか哀しげな色を見つけたときからだったんだ。





「いつか」
『ん?』
「いつか、話してくれ。ディオニシュのこと、いろいろさ」
『…うん。時が来れば必ず話すよ』


…だから、今は。

すがるように伸ばされた腕を引き寄せて、俺はディオニシュの身体を抱き締めた。小さくて、壊れてしまうんじゃないかと思うほど。


(やっぱり、俺が守らないと)








「…ディオニシュ……?」


人肌に触れて安心したのだろうか。腕の中のディオニシュは静かに寝息を立てていて、そんな彼女の無防備な態度に苦笑しつつも、俺はディオニシュを寝袋へと寝かせた。





「……さて、俺はどうやって寝ようかな…」



とりあえず、風邪を引かないように、ディオニシュの隣で眠るとしますか。











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