夢の先へ

期待の先・後編
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「――落ち着いた?」
『ごめんね、ティナ。こんな話に付き合わせちゃって。』


宿から少し離れた場所で、ディオニシュとティナは壁に背を預けながら空を見ていた。
もちろん、話の内容はディオニシュとフリオニールの間で起こったこと。ディオニシュは申し訳なさそうに、ティナに頭を下げる。

「ううん、いいの。…ディオニシュが彼をどう思っているか、知れたし。」
『テ、ティナ、』
「大丈夫、誰にも言わないよ。
ディオニシュは彼のこと、嫌いになったわけじゃないでしょう?」
『…うん。ただ、何にも覚えてなかったことに腹が立ったっていうか…あぁっ悔しい!』


ダン、と片足で地面を蹴る。そんなディオニシュを見て、ティナは苦笑を浮かべるも、穏やかな口調で言葉を続けた。



「ふふ。それだけ、ディオニシュが彼を好きってことだよね。」
『好き…なのかなぁ。』
「うん、きっとそうだよ。だって、こんなに気にしているんだもの。」
『(…私が、人を好きになるなんて、)』



少しだけ、信じられない。でも、自分の気持ちに偽りはない。

わずかな困惑と小さな矛盾を抱えながら、ディオニシュは再び空を仰いだ。
混沌に満ちているとはいえ、コスモスの力のお陰でまだ空は青いまま。

光の戦士達がコスモスの力によって召喚されるまで、自分は光を見ることすらままならなかったから。

『(少し、眩しいか)』


改めて知る光の眩しさに、ディオニシュは複雑な気持ちでいっぱいだった。

目を細め、神妙な面持ちで口を閉じたディオニシュに、ティナは無理に話しかけることはせず、ただ彼女を見守る。
そんな時、遠くの方から二人を呼ぶ声が響き、は空から視線を戻してそちらを見た。


「―――二人とも!ここにいたんだね。」
『…たまね……オニオン君?』
「今、何か言いかけなかった?まぁいいや。ディオニシュ、フリオニールが探してたよ。まだ宿の近くにいるはずだから。」
『え、フリオニールが?』


ヒラヒラと手を振りながらやってきたのはオニオンナイトで、宿の方向を指差しながら言う彼には思わずティナを振り返る。
自分の方から怒って飛び出してきたのだ、今さら会いづらいのだろう。


そんなの心の内を読み取ったティナは、優しく微笑んで彼女の手を取って言った。


「ディオニシュ、いつまでもこのままじゃ、いられないでしょう?」
『……うん。そう、だよね。』


ティナにつられ、ディオニシュはやんわりと微笑んだ。
そして、ティナとオニオンナイトにお礼を言って、ゆっくりと歩き出す。
正直なんと言葉を交わせばよいのか解らないが、それはフリオニールの方も同じで。













「(やっぱり、怒ってるよなぁ…。でもこのままじゃ埒があかないし…)」


フリオニールは宿の付近をうろつきながら、なかなか肝心の一歩が踏み出せずにいた。
いざ、ディオニシュと顔を合わせたら、まず言葉に困るのは必然だ。かといって沈黙すれば、もう本気でディオニシュに許してもらえないかもしれない。
しかしどうすれば…そんな葛藤に、今にも身が焦がれそうだった。








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