夢の先へ

小さな感情
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だいぶ日が沈みかけた頃。俺達は寝泊まりできる場所を探して、キョロキョロとその辺を歩き回っていた。



「…この辺でいいか。」
「うん、いいんじゃない?」
「じゃ、コテージを……ん?どうした?ディオニシュ」


草を掻き分けて辿り着いた先には、ちょうどいい具合に開けた場所があった。クラウドの意見に賛同し、コテージの入った荷物を下ろすと、落ち着かない様子で立つディオニシュが視界に入る。




『あ…うん。その、ティーダ…いなくない?』
「なっ、はぐれたのか?…いや、ティーダのことだから、その辺をほっつき歩いてるんだろ。」



不安そうな顔で、俺を見上げるディオニシュ。言われるまで気付かなかったなんて、ティーダ本人に言ったら怒られそうだけど、実際野宿先を探すのに一苦労だったため、本気でティーダのことを忘れていた。
俺の言葉に、無責任な、と言わんばかりのディオニシュのカオ。











『敵に捕まってたりでもしたら、どうしよう…』
「大丈夫だよ、ディオニシュ。」
「あぁ、ティーダはああ見えても結構強いからな。」



セシルとクラウドがディオニシュの肩を叩くと、ディオニシュは少し落ち着いたのか強張らせていた表情を和らげた。






「(俺が言っても、ダメだったのに。)」



やっぱり大人は違うよな、なんて理由付けして、俺はちょっとしたモヤモヤ感を振り払う。






「……おーい!みんなー!」
「あ、ティーダ。」
「…!どこ行ってたんだ、コイツ!」
「ぁ痛ッ!酷いッス!」
『まぁまぁ、フリオニール…』









おーい、なんて呑気な声をあげ、ブンブン手を振りながら、ティーダは駆け足で戻ってきた。俺達を(いやむしろディオニシュを)、ここまで心配させて、よく笑ってられるな、コイツは。
モヤモヤがイライラに変わって、俺はティーダの能天気な頭に一発入れた。




「どこに行っていたんだい?ティーダ。」
「あ!そう、そうッス!この先に、温泉があったんだ!」
「宿屋の次は温泉…?なんでもありなんだな、ここは。」
『へぇー、温泉か!』



茂みの先を指差すティーダにつられ、みんなそちらを振り向く。よく目を凝らせば、確かに暗がりの中に蒸気のようなモノが見えないでもない。コテージを広げ出したクラウド以外、俺達の意識は温泉に向けられていた。



「ディオニシュ!一緒に入ろ…いてっ!」
「バカ言うな!まったく、お前ってヤツは…」
「じょぉだんッスよ!冗談!まったく、フリオニールだって本当はディオニシュと入りたいくせにぁでっ!」









…本日三発目。本当にティーダは学習能力がない。というより、俺が単にイラついているだけ…?
いや、なんにせよ、今のはティーダが悪い。




「そろそろ口を利けなくしてやろうか…?」



苦笑するセシル達を尻目に、ジリジリとティーダに迫る。



『…止めなよ、フリオニール。そんなに怒らなくてもいいじゃない。ティーダはまだ子供なんだから。』
「ねー!酷いッスよフリオニール!」
「……ちっ…」



ディオニシュだってたいして変わらないんじゃないのか?!…なんて言えるはずもなく。
ティーダを背に回し、俺を睨むディオニシュの後ろで、ニヤニヤするティーダに無性に腹が立った。



「俺達が夜営の準備をしておく。その間に、誰か入ってきたらどうだ。」
「ディオニシュ、行ってきなよ。ゆっくりとさ。」
『え?本当?じゃ、そうしようかな。』



クラウド達に言われ、思わず破顔するディオニシュ。

…なんか、俺だけ、浮いてないか?



「(まさか、嫉妬…いや、そんな醜いことは……。)」



日が傾けば傾くほど。俺の苛立ちは募るばかりだった。





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