夢の先へ

今だけは
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『フリオニール。ちょっといい?』
「ん?何だディオニシュ?」


だいぶ落ち着いた。さっきのイライラなんて嘘みたいに。
俺って、案外単純らしい。

聞き慣れた声に振り向くと、そこには桶っぽいモノにタオルやら石鹸やらを入れ、小脇に抱えるディオニシュがいた。
…ってか、その桶、どこから?


『ん?あぁ、この桶?以前ウォーリアに。』
「えっ?!あ、そ、そうか。で、俺に何か用?」


マジでか。一瞬本気で、風呂桶片手に温泉に浸かるウォーリアが浮かんでしまった。
(ってか、ディオニシュもそんなにサラッと言うなよ!)


『うん、温泉に行きたいんだけど…見張り、頼めないかな。さすがに一人じゃ不安で…。』
「そ、そうか!分かった。」
『ありがとう!』


こ、こんな時こそ平常心。声が若干上擦りかけるも、笑顔で対処すれば、ディオニシュは微笑んで温泉へと向かった。慌てて俺も後を追う。

あれ?でも温泉に入ってるディオニシュの見張りって……。



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「なーんか、怪しいッス。」
「何が?」
「ディオニシュとフリオニール、やたらと仲良すぎじゃないスか?」

「そうだね…でも、悪いよりはいいんじゃない?」
「ふーん…いや、やっぱりのばらばっかり、ずるいッス。」
「まぁ、あれだよね。無意識に惹かれ合ってる感じ。」
「ディオニシュはともかく、フリオニールは鈍感だからな〜。」
「気付いてないのは、当の本人達だけだろうね。」
「あ〜あ。のばらのクセに…なぁクラウド?」
「………興味ないね。」
「やっぱりか。」



-------


『…じゃ、フリオニールはそこにいてね。』
「あ、あぁ……っ!」
『やだ、見ないでよー。』


やっぱり、こういうことか!
暗がりでよく見えないが、月明かりが湯水に反射し、ディオニシュの姿を映し出す。
するり、と服の擦れる音が聞こえたかと思えば、苦笑して俺を見るディオニシュと目が合う。


「(ま、まずい…非常にまずい!!)」


刺激的すぎる!今にも卒倒しそうだ!


「えっと、ディオニシュ、その…」
『大丈夫だよ、タオル巻いたから。』
「あっ、そ、そうか。」


少なくとも、俺は大丈夫じゃない!
白いタオルに巻かれたディオニシュの身体は、腰とかその辺りのラインがやたら強調されて見えて…





「(ゴクッ……)」


今さらだけど、生唾を飲み込んでしまった。
















『……フリオニール?』
「な、なんだっ?」
『ふふ、呼んだだけ。』
「(た、頼むから止してくれ!心臓に悪い!)」


わずかな水音ですら、俺の肩を跳ねさせるには十分なワケで。何気無しに名前なんて呼ばれれば、俺は変な汗を流していた。
クスクスと、悪戯な笑みを浮かべるディオニシュが横目で見える。



『……ねぇ見てフリオニール、空、凄いよ。』
「ん?あぁ…綺麗な星空だな。」



ちょっとした沈黙の後、ふとディオニシュに言われ空を見上げると、そこには幾千万の星々が、地上の俺達に向かって目配せをしていた。
思わず感嘆の声が漏れるほど、夜空は晴れ渡っていて。

『あ、流れ星……』
「何か、願い事したか?」
『ふふーん。ヒミツッス。』
「何だよ、それ?じゃあ俺もヒミツだな。」
『えー?何それ?…この星空みたいに、クリスタルもすぐ側に感じられればいいのにね。』
「あぁ…早く見つかるといいな。もちろん、ディオニシュのクリスタルも。」
『………うん。そうだね。』







まるで筆で描いたように、細い光を残して消えた流れ星。
見ていると吸い込まれそうなほどの広大な星空に見とれていて、俺は一瞬曇ったディオニシュの表情と、その小さな呟きに気づくことができなかった。



『(……好きな人といつまでも一緒にいたい、なんて。)』
「ん?何か言ったかディオニシュ?」
『あぁ…いや、私の願いは、叶いそうにないなぁって。』
「?何言ってる。ディオニシュの願いは俺の願いだ。俺が必ず叶えてやるから、そんな悲しいこと言うなよ。」


暗闇にディオニシュの沈んだ声が響く。思わず不思議に思って身を乗り出せば、ディオニシュは少しだけ目に涙を溜めていた。


「な、泣くなよ、ディオニシュ。大丈夫だって。俺がついてるから。」
『…うん…ありがとう、フリオニール…嬉しい…』
「い、いや…ほら!ちゃんと身体温めないと、逆に風邪引くぞ!」






(ありがとう、フリオニール。
でも、あまり私に優しくしないで。
これ以上好きにさせないで。)




『(でないと、私……。)』






(でも、今だけは、どうかこのままで。)


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