皇帝と愉快なフリオ達

□同じ穴の狢
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『――なぜここにいるの?フリオニール』



いつでも攻撃が仕掛けられるよう、魔法を放つ手をフリオニールに向けながら、私は低くそう訊ねる。

フリオニールが帝国に逆する反乱軍だということは知っている。そんな彼が帝国の配下になったフィンに、しかも変装までして潜入しているということは、諜報活動か反乱そのもののどちらかを行うためだ。














「答える必要もないだろう、アエリア。俺はむしろ…なんでアンタが皇帝なんかと一緒にいるのか訊きたい」

『………?』

「皇帝がどんな奴か…アエリアだって知ってるだろ…?」




震えるフリオニールの拳と声に、私は思わず彼に向けていた手を引いた。




「皇帝は、俺の国を、家族を、全部奪っていった…帝国軍から逃げる途中にはぐれたマリアの兄だって行方が分からないまま…こんな酷いことをする奴に、なんでついていくんだ!」

『……………、』






今度は私が剣を突き付けられる側だった。フリオニールは叫びと共に素早く細身の剣を抜き、私の喉元に冷たい感触を与える。

皇帝が…マティウスが。あの人が、どんな人かは承知の上。
彼が今までなにをしてきたか、これからなにをしようとしているのか。
もしかしたら私の神子としての力を利用したいときがあるかもしれない。

でも、私には、あの人についていく理由がある。















『……私は…あの人に助けられたから。だから、今度は、私があの人の力になる。だから一緒にいる。
義、だよ。フリオニール』

「義……それが、アンタの義心だっていうのか?」




言いながら、剣の切っ先を指で押し、フリオニールから一、二歩遠ざかる。
フリオニールは義士だ。義に厚いフリオニールに義を説けば、彼は苦虫を噛み潰したような難しい顔をしていた。

まぁ、それも仕方ないだろう。フリオニールにとって、あの人は憎しみの相手でしかない。きっと彼の目には、仇としてのあの人しか映っていないのだから。

フリオニールは抜いていた剣を収めて、軽く深呼吸をした。










「…さっきのアエリアの質問、答えておく。」

『…?』

「帝国は今、大戦艦を造っているって噂じゃないか。ダークナイトって男が指揮に着いてから、作業が本格化した、と。」

『……!
それで、わざわざフィンに潜入したと?』

「あぁ。俺はアルテアの王女に救われたんだ。だから彼女の為なら、多少の危険は………ふ、アエリアと同じ、だな」

『……そうだね』







フリオニールの言葉を耳にしながら、ふとダークナイトのことを思い出す。実際は城で一回会ったきりで、それ以外に思い出せるのは、耳に入る噂や功績しかないのだが。

…そう言えば確かに、ダークナイトが指揮官になってから軍の作業効率が格段に上がり、完成のメドが立っていなかった大戦艦も…






『(ダークナイト…か)』










軽く自分の世界に入りかけていた私に、フリオニールが声をかけた。彼の背後から仲間達の影が近付いてくる。おそらく今から、大戦艦を破壊しに向かう気なのだろう。








「…止めないのか?」

『止めてもいいの?』

「ちょっと、困るかな」






…彼は、彼らは、私が止めないと分かっているに違いない。あんなことを言われれば、さらにそんな気にはなれない。
私は肩を落としながら、近くの石に腰を下ろして手を振った。








『―――行きなよ。
まぁ、そう簡単に帝国の警備網を突破できるとは思わないけれど。』

「……望むところだ。じゃあな」

『(あぁ、きっと怒られる)』







石畳を駆け出すフリオニール達の背を見つめながら、私は小さく項垂れた。本気になれば、あんな少人数、一捻りなのに。あの人のことを思えば、彼らは消しておくに限る存在なのに。





『…まぁ、勝手は出来ないし』







それに何より、何より私は、この状況を…楽しんでいるのかもしれない。
帝国か、反乱軍か。どちらに転ぶか解らない、この戦況を。







(所詮は同じ穴の狢)









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