皇帝と愉快なフリオ達

□誤算
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『――どうやら、反乱軍の連中は、アルテアの王女の元に身を寄せているようです。大戦艦の場所も、だいたい把握しているようで。早く手を打たないと、破壊される可能性もあります。』
「…そうだな。フリオニールも、少しはやるようだ。」
『……………』



結局私は反乱軍の一味を逃がした。しかも、故意で。それはもちろん咎められるべき事柄だが、何せ皇帝サマはこういう人だ。彼の言葉を借りるなら、
(虫けらを数匹逃がしたくらいで、何になる?)
と言ったところか。
私ももちろん彼らの実力や危険性をまったく知らないわけではない。


『(私も、大分感化されてきたみたいだ。)』



私がフリオニール達を見逃し、皇帝サマのところへ頃合いを計って戻れば、彼は用意された大きめの椅子に腰を下ろし、周りの兵に指示を出しているところだった。中には慌ただしく皇帝サマへ取り次ぎを頼んでいる者もいて、まさかとは思ったが。









『皇帝サマ。慌ただしいですね。何か?』
「ん、アエリアか。いや、取るに足らん事だ。…反乱軍が、このフィンに潜入し、大戦艦の場所を探っていたとか。」
『…へぇ。そりゃあ、』



大変じゃないですか。
そう続けようとした言葉は、簡単に形を失うことになる。



「―――アエリア。奴らを逃がしたそうだな。兵の中に、それを見たという者がいた。」
『…………!!…さすが、帝国軍の方々の目は欺けませんね。』



鈍い金属音を耳にした途端、目の前に皇帝サマ愛用のロッドが突き付けられる。
(今日はやたらと得物を突き付けられる日だ)
などと余裕を浮かべてはみるものの、さすがに皇帝サマの怒りを買ったかと背中に嫌な汗が流れる。
しかし、皇帝サマは鼻で小さく笑って、ゆっくりとロッドを下げた。




「…ふっ。解っているぞ、アエリア。私のためにわざと逃したのだな。」
『――う、うん。あれはマティウスの獲物だから。』
「さすがはアエリアだな。」




一瞬、マティウスの眸の中にとても鋭い光を見た気がして、私は浅はかだったかと心で舌打ちする。
だが大抵私とマティウスの考えは一緒で、彼も私に獲物を奪われたくないと思っているはず。
あの時彼らを始末しなかったことがどうあれ、結果的にはこれでよかったのだと結論付けておこう。

話を冒頭に戻せば、私の言葉を耳にした後、皇帝サマは指で肘掛けを叩きながら、何やら思案するように遠くを見ていた。





「アエリア、」
『は、はい。』
「お前なら、この状況にどう手を打つ?」
『私、ですか?私なら……』



――アルテアの国が反乱軍の温床になっているのなら、王女を人質として幽閉するか、もしくはアルテアの国自体を滅ぼし反乱軍をも根絶やしにする。
…これが、私の考えなのだが。




「…確かに、それが最善かつ最短の方法だ。だが…決起するには、まだ早い。」
『そう、ですか?何事も先手を打つことが最善の策かと、』
「アエリア。これは戦争だ。だが、私にとっては享楽の一つに過ぎん。真剣に勝つ方法を考えるのもいいが、もう少し愉しみながら進めることも大切だ。」

『そうなんですか?…うーん。なかなか難しいものですね。』




パラメキア帝国は世界を統べようとしているのに、この皇帝サマはずいぶんと気楽な人らしい。少なくとも、戦争を"享楽の一つ"と言った人は、(私もかなり長く生きてきたが)今まででこの人一人。
…まぁ、そんなところも含めて、好きになったのだけれど。
それについてはその内分かる、なんて言われ、私はうんうんと唸りながらも近くの椅子に座ろうとした、その時。









「――皇帝陛下!反乱軍が地下通路に侵入!大戦艦の元に……ぐッ!」
『な、!』
「!アエリア、下がれ!」
『え…………っ?』




兵の一人が皇帝サマの元にやってきたと思えば、すぐさまその人は鮮血を滴らせて息絶えた。
慌てふためく兵達の背後、血を携えた剣を握る人物を見た刹那、皇帝サマは私の腕を引こうと椅子から身を乗り出したが、その前な私は何者かに口を押さえられ、ゆっくりと意識を失っていった。

耳元で、微かな囁きを聞きながら。








「…すまない、アエリア。」
『……!』



ああ、この声は。



(やっぱり、見誤ったか。)






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