皇帝と愉快なフリオ達

□反乱軍の声
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広い室内が、しばし静寂に包まれる。
誰もが物音一つ 咳払いの一つもせず、ただ私と その先にいる王女・ヒルダを見つめている。
感じる視線が、身体中に突き刺さり貫いてしまうようだった。

耐えかねて、小さく生唾を飲む。


『――まさか、私に、あなた方を救えと?』
「いえ、そうではありません。ただ、アエリアさん、あなたはこの世界の現状を知らない。ですから、」


静寂を破ったのは 私の方。今にも斬りかかって来そうな勢いの王女の護衛の隣をすり抜け、玉座に座る王女の目の前に立つと、王女もゆっくりと立ち上がって私と目を合わせた。


『…結局は、私の手で皇帝陛下を止めてほしいだけでしょう。』
「そう聞こえますか?」
『あなたは偽善者だ。所詮エゴの固まり。
帝国の攻撃で傷付いた彼らを救い、そして反乱軍に育てたのだから。』


私は王女と見合い、フリオニールらに背を向けたまま、彼らを指差す。
不意を突かれたフリオニールは少しだけ顔を歪めたが、目の前の王女は端正な眉をピクリともさせない。

これ以上の言い合いも無駄だと理解した私は、ゆっくりと後ろに下がりながら私を囲む反乱軍の数を目で数える。

いざとなったら、力ずくで逃げるしかないからだ。


『…そろそろ帰らせてもらいますよ。皇帝サマが心配するだろうし。』
「なっ!王女!」


私の言葉に フリオニールはハッとして声をあげ王女を見上げたが、王女は涼しげな声で彼を諭す。


「なりません、フリオニール。それにあなたも。私はまだアエリアさんにすべてをお話ししていない。」
『まだ何か…?』
「まさか、あのことも…?!」
『…?あのこと…?』


悔しそうに身を引くフリオニールを横目で見つめながら、私は再び王女と向き合う。王女は一息ついて、少しだけ間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。




「―――アエリアさん、あなたは…アルテマという黒魔法をご存知ですか?」
『アルテマ…?えぇ、まぁ、』


もちろん使えますが、という意味を含んだ眼差しを送れば、王女は そうですか、と呟いて遠くを見た。
アルテマなど、異説の世界では大して珍しい魔法でもなかった。現に攻撃が魔法主体のクジャやケフカは十分に使いこなせていたし、もちろん私も使える魔法だから。



だけど、それが何か?と切り返す前に、王女と目配せしていたフリオニールが私に近付いて 言いにくそうにしながらも語りだした。


「……俺達は、帝国に抵抗するため……アルテマの書を手に入れるつもりだ。ホーリーや他の黒魔法を遥かに上回るアルテマの力を得て……」
『………!な、なんだって、』
「アルテマを使えば、帝国に一矢報いることだって、あるいは……」


…この世界において、魔法はその魔法の力を宿した書から会得すると聞いた。現に店に行ったらケアルの本とかが売っていたし、多少値は張るが私が今まで使えなかった魔法も、それで覚えることが可能になった。
だが、アルテマほどの強力な力を得られる本など、簡単に手に入らないのではないか。…そして、何より、


『アルテマ一つで、本当に帝国に抗えると…?』


無理だ、と思った。私もそれなりに長いこと戦争というものを見つめてきたが、たかだか最強の黒魔法といわれるもの一つを手にしたくらいで 戦況がひっくり返った戦などない。

…第一。


『…皇帝の魔力は、アルテマの上を行く。』
「……!」
『たつまき、メテオ…まぁ、いんせきですか。


フリオニールだって、よく解っているでしょう?彼は地獄の力を持つが故に 強力な魔力を持つ。そんな人に勝てますか?そんな人が統べる国に。』
「…そ、れは!」


やってみなければ解らない。そう言いたげに震えるフリオニールの拳に、思わず胸が痛んだ。少ない希望にすがる姿勢は同情より感嘆を生むけれど…。


『…帝国に逆らわなければ、命は取られない。命が惜しくば静かに暮らすことをお勧めしますよ。』
「…できない!レオンハルトの行方だって、まだ…!」
『…もしかしたら、帝国に降ったかもしれないじゃないですか。もっと冷静に 状況を考えてみては?』
「……ま、待て!アエリア!!」


帝国に逆らったら命はない。彼らの、王女の、反乱軍の気持ちは確かに本物だが、私にはそれを受け止めてどうこう出来るほどの器量はない。そう割り切って、彼らを敵なのだと割り切って。

私は逃がすまいと伸ばすフリオニールの手がその腕を捕らえる前に、テレポを唱えて城から姿を消した。


…皇帝サマ、まだフィンにいるだろうか。

まぁ、なんにせよ、









(私はただ、見つめるだけ。)











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