混沌なる夢物語U

□命あっての物種
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相手が丸腰の女性とはいえ、敵に命を救われるというのは生き恥を曝すのもいいところだ。


「ボクを助けて何がしたい…情けなんてかけないで さっさと仲間の前にボクを突き出せばいいじゃないか」


強がったことを言っているが 正直先に受けた傷が痛む。治療のために張られた魔方陣の上に膝をつく形で、ボクはこちらを見つめる少女を見上げた。


『突き出したりなんてしませんよ、せっかく助けた相手なのに』

「ならばなぜ助けた?理由があって助けたんじゃないのか」

『うーん……助けたかったから助けた、ではダメなんですか?』



睨みあげるようなボクの視線を受けてもなお 彼女はあどけない表情を浮かべたままそう答えた。…なんておかしな女なんだ。ボクは彼女がコスモスの手の者であると知っている。向こうもボクがどちら側の者かくらい把握しているだろう。それなのに、助けたかったから助けた?本当に理解できない。


『誰かを助けるのに情けも理由もいらないじゃないですか。死にたかったというのならいつでも息の根くらいは止めてあげますよ。ここは戦場ですしね』


「なん、だと……、」

『行動に理由を求めちゃダメですよ。……私があなたを助けたことに理由付けをするのなら、あなた一人が死んでも何も変わらないから。この闘争が終わるわけでもなければ誰かに利益があるわけでもない。何も変わらないなら、生きてた方がいいじゃないですか。違いますか?』

「…………ッ、」



彼女はゆっくりとこちらに近付き、ボクの顔を見つめながら言った。圧倒的だった。先ほどまでのあどけなさなど影もなく、今彼女の顔にあるのは強い意志の宿った表情。そのあまりの説得力の強さにボクはただ圧倒され、思わず言葉に詰まってしまった。
その瞬間、目の前の少女に対する疑念など消え失せた。彼女の言うことは正しいと心から思えた。





「…キミは、実に変わった子だね。こんなことをしてコスモスに怒られはしないのかい?」

『コスモスも仲間のみんなも 無駄な殺生は好まない。むしろ人助けが好きな人達だから大丈夫です』

「本当に変わった連中だ…」


彼女の顔にまたあどけなさが戻ったと同時に、ボクの身体を蝕む痛みもほぼ消えていた。ゆっくりと立ち上がり彼女を見ると、そこには柔らかな笑みがあった。







「―――助けてくれて、ありがとう」

『どういたしまして』




目の前で優しく笑うのは名も知らぬ少女。自然と浮かんだ笑みの理由は 今は考えないでおこうか。









命あっての物種

生きててよかった、なんて

実にボクらしくない


(次に会ったときは 名前くらいは聞けるだろうか)
















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人間くさいクジャ様とまともなことを言うヒロインを書きたかった。ちなみにヒロインは秩序側の神子だったのですがどうしても名前変換が入れられず…残念無念。

 

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