夢の先へ・U

心音ブレイク
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男四人が身を隠すには決して十分とはいえないソファーにしがみつき、息をひそめるフリオニール達。一体なんだというのか。フリオニールがゆっくりとソファーの先を見れば…。


「あれは…ウォーリアじゃないか。」

懐中電灯片手に廊下を進むウォーリアの姿が確認できた。しかしなぜウォーリアが来たことで隠れねばならないのか、そんな視線をバッツに送れば、バッツは小さな声でフリオニールに耳打ちする。

「リーダーの見回りだ…。もうすぐ消灯の時間らしいからな。」
「消灯の時間?」

言われてみれば、確かにウォーリアはラウンジ一体をぐるっと見回して、時折後ろを振り返りしきりに人の気配を探しているように見える。消灯時間前に部屋から出歩いているメンバーがいないかを確認しながら歩いているらしかった。少しでも気を抜けばきっと見つかってしまうので フリオニール達はじっと彼が通り過ぎるのを待つ。

「なんかあれだな…修学旅行の引率の先生みたいッスよ…。」
「ンな可愛いもんじゃねーよ!見つかったら超厄介だぜ…。」

「目が合った瞬間即ブレイクだろうなー。ははっ!」
「バッツ!笑顔で恐ろしいことを言わないでくれ!」

明らかに死を見据えた発言をするバッツに気が気でないフリオニール。黙っていればいいのにヒソヒソと話すもんだから、それに気付いたのかウォーリアがバッと彼らが隠れるソファーを振り向いた。

「やばっ!こっち見てるッス!」
「大丈夫…向こうからはかろうじて死角になってるみたいだぜ。」
「ここはダンジョンか!」

冷や汗垂らしまくりなフリオニールを尻目に笑うバッツ。ウォーリアは数歩だけソファーの方に近付いたが、気のせいと思ったのかゆっくりと廊下に戻っていった。時刻はそろそろ消灯時間の23時で、ウォーリアが戻るより早く部屋へ戻らねば明日は見えないだろう。幸運なことにウォーリアはフリオニール達の部屋とは逆の方向に向かったため、なんとか命拾いした。

「(ってか俺達は何をしているんだ…?休息の最中じゃないのか…?)」

そんなフリオニールの思いも能天気な仲間達には通じることはない。

「…よし、戻ったみたいだな。今のうちおとなしく戻りゃ大丈夫だ。」



ウォーリアの足音が完全に聞こえなくなり、四人はソファーに我先にと座り込んだ。ジタンが大きく息を吐くと他も次々に呼吸を整える。

「しょうがない。せっかくいい暇つぶしだったんだけどな。」
「そーっスね。ま、とりあえず…頑張れよのばら!」
「な、何をだ。」

ウォーリアが去った途端また冒頭の話題に戻ったらしい。ティーダにニヤニヤと笑われ、それでもフリオニールはあえて知らぬ顔をする。

「分かってるくせに!なぁバッツ?」
「ホントだぜ!行くんだろ?ディオニシュの部屋に。」
「そ、それは…お前達には関係ないだろ!」
「のばら、顔が赤いッスよ!」
「うるさいっ!」
「あだっ!」

ニヤニヤとした笑みを向けられ、今さら緊張してきた、などとは言えず。フリオニールは変に上擦った声でティーダの頭を軽く叩き上げた。





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その頃ディオニシュもフリオニールと同じ心境に陥っていた。ベッドの上にちょこんと腰掛け、フリオニールが来るのをひそかに待つ。

『あんなこと言ったけど…来てくれるかな…。』



その視線は自然とドアに向けられ、静まりかえった部屋に響くのは時計の針が動く音のみ。ディオニシュがただじっと目を閉じていれば、やがて入口のドアが数回ノックされた。

「ディオニシュ…起きてるか?」
『!…いいよ、入って。』

静かにドアノブが回され、フリオニールが姿を現す。どこか疲れた様子だったがそれでもちゃんと来てくれたことに、ディオニシュは内心落ち着かないほど動揺していた。

『もしかして、眠いの?』

ベッドの端に腰掛けたフリオニールを小首を傾げて見つめるディオニシュ。時間も時間だし、もしかしたら迷惑だったかと思ったが フリオニールは少し恥ずかしそうに視線を逸らしながらぽつりと呟く。

「…ディオニシュを前にして、眠いとか言ってられないだろ…。」
『そ、それって、』
「今夜は寝かせない、ってことだ。」
『…!』

ゆっくりとフリオニールの顔が近づき、やがて小さなキスをされる。驚く間すら惜しむようにベッドに押し倒されれば、ディオニシュにはもう成す術はなかったのだった。









 


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