混沌なる世界に光あれ

□終わりの始まり
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次元の彼方に君臨する二柱の神は、終わりない死闘を繰り広げていた。
ここは創造と破壊を繰り返す世界。

神々の争いに喚び出された私達は、ついに調和の神コスモスが破れ世界が混沌に包まれていくのをただ静かに見つめていた。
誰も口を開かず、瞬きもせず。静かに、静かに。










―――――――――










クリスタルがまたしても光の戦士達の手に渡ったらしい。その度にカオスは機嫌を損ね、必ず私を呼び出す。私がカオスに最も近い存在だから。
だから今日も今日とて下げたくない頭を下げ、冷たい床に方膝をつく。



『カオス…お気持ちは解りますが、クリスタルが彼らの手に渡ったところで なんの不都合もございません。彼らが全てのクリスタルを手に我らの元に現れた時こそ 真の混沌の始まりにございます。あなたはそれまでゆるりとそこで構えていればいいのです』
「貴様の言葉…信ずるに値するのか?」
『えぇ…混沌をこの身に宿した者として、あなたの悪いようにはいたしません。では』






私はスッと立ち上がり、カオスの元を去った。全身が粟立つほどのカオスの威圧感に堪えかねたからだ。
目眩がする、吐き気がする。

同じ混沌といえども、私とカオスではレベルが違う。
ふらつく足取りでなんとか外へ飛び出ると 杖を持て余したように握り立つ皇帝の姿が見えた。その表情はどこか真剣だ。
私は何とかしっかりと足を動かし彼の近くへ歩み寄る。






「ずいぶんと長かったな。説教か?」
『イヤだな、違いますよ。カオスの愚痴を聞いてただけです』
「神子というものは なかなか苦労が多いようだな」
『えぇ、』






その口振りからして、皇帝は私のことを待っていてくれたのだろうか。だとしたらなかなかいいところもあるじゃないか。
…多分そんなことを口にしたら何をされるか解らないからあえて言わないが。
私は息苦しさから解放されたことを思いだし、皇帝の前で思いっきり深呼吸してみせた。彼の表情は相変わらず固いまま。
顔をあげてふと遠くを見れば まだ混沌に包まれていなかった場所が暗闇に溶けていくのが見えた。
…あぁ、また闇が増えた。また混沌の世界が拡がった。カオス側に着いている私が言うのも変だが、私はカオスとコスモスの争いが納得いかない。見ていてイライラする。
急に雰囲気を変えた私を見て、皇帝はゆっくりと口を開いた。






「…アエリアよ、お前は今のこの状況…神々のこの争いを なんと見る?」
『……?私にそんなこと訊いちゃっていいんですか?』
「お前の意見が聞きたい」
『私の意見、ですか。…はっきり言っちゃえば、カオスもコスモスも同レベルですね。優勝劣敗と言いますが、神々が勝ち負けを争ってどうするんです?そのせいで世界の均衡は破られ 私達が連れてこられるハメになった。私から言わせれば、神々の争いなんて 子供の喧嘩みたいなものですよ』






私は深呼吸した勢いで 一気にそう吐き捨ててみせた。聞いている間も皇帝は表情を崩さぬまま。ただ細めた目で私を見つめている。彼が私にどんな答えを求めたのか知らないが、私は自分なりの意見を言ってみただけだ。
…神子としてはいささか口にしてはいけないセリフだったかもしれないが。

皇帝は目を閉じて下を向き、少し間を置いて薄く笑った。








「やはり アエリアは面白いな。仮にも混沌を宿した神子だというのに。あまりにも客観的すぎるというか、主観的すぎるというか」

『私はカオスとかコスモスとかはどうでもいいんです。正直ね。ただ…世界がこのまま全て混沌に包まれて 光が無くなるのは少々気に入らないだけ。マティウス様は 違いますか?』
「――私もアエリアと同じだな。神々がどうあれ 世界がどうあれ…正直さほど興味はない。カオスには力を与えてくれたことのみ感謝し従っている。私にすれば闇を払う光にすら興味はないが…」
『…………?』
「……私は アエリアの意見には興味がある。気まぐれな興味だがな」






皇帝は私を見るでもなく どこを見るでもなく、ただ遠くを見てそう告げた。
私が言葉を発する前に また空間が闇に飲まれていった。思わず目を逸らすと皇帝は静かに私の頭を撫でた。

――混沌を宿した神子である限り、こんなことは考えてはいけないのに。
世界が闇に堕ちていくのは どうしようもなくイヤなんだ。









終わりの始まり

(黙って見てるだけなんて、あいにく私にはできそうにない)












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