混沌なる世界に光あれ

□見据える先
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「アエリア、お前はこの先 どうしたい?」
『この、先…?』






私の涙が止まった頃 皇帝は相変わらず遠くを見るような目で訊ねてきた。
傍観を止めるなら、何をするのか。そういう意味。








『私は…止めたい。カオスのことも、コスモスに言われるがままクリスタルを集めている 彼らのことも』





私はまっすぐに前を向いて告げた。痛いくらいの静寂が少しずつ晴れていく。




この世界は戦場

私達はカオスの実験台

彼らはコスモスの言いなり

果たして彼らは理解しているのだろうか?クリスタルをすべて揃えカオスに立ち向かっていったときこそ 真の混沌の幕開けになるということを。
いや、解っていたなら あんなにも必死にクリスタルを集めたりはしない。







「止めたい、か。面白い話だが 本当に止められるのか?気まぐれに事を起こす 混沌と調和の神達を」
『…確率は少ないです。まず協力者がいない。最悪の場合…私が一人でやりますが』





私の言葉に皇帝の顔が怪訝そうに歪められた。何かを言いたげな顔だ。








「アエリア、お前 私にここまで話をしておいて 一人でやるとはどういう了見だ?」
『え?』
「他の誰が協力せずとも 私はお前に協力する。もちろん相応の見返りは貰うがな」






皇帝の言葉に思わず肩が跳ねた。
掴みどころのない人だ。そう思った。
協力とか力を貸すとか、そういった単語は決して口にしない人だと思っていたのに。それなのに目の前の彼は カオスのいる神殿の奥を見つめ言った。そこには確固たるものがあった。









『…でも、もし失敗したら マティウスの命だって』
「私は悪魔に魂を売り払い地獄の力を得た。たとえ相手が神だろうと 簡単には死なん。アエリアは違うのか?」
『私……私も、簡単には』








一人だけならカオスに及びはしないが 二人なら?二人なら、混沌の神すら討てるかもしれない。カオスを倒しコスモスを止め 世界に真の光を…あ、皇帝は闇を払う光には興味がないんだっけ。
私に視線を移した皇帝の目はとても力強くて、本当に大それたことが出来そうな自信に溢れていた。


それは彼が"皇帝"だからか 私が信じるに値する"大切な人"だからか。

――そんな時背後から物音が聞こえ 私はとっさに身を引いた。…暴走したイミテーションだ。
カオスの放ったイミテーション。普段は私達カオス軍勢の者は襲わないくせに、たまにこうやって仲間を襲うイミテーションがいる。そのたびに私は心を痛めながらそれらを倒す。壊す。躊躇は出来ない。それなのに。








『…………ッ!』







私達の前に現れたイミテーションは 皇帝の力を宿したものだった。それを見て私は動きが鈍る。足が止まる。壊せない。…殺られる。その時だった。

固く目を閉じても瞼を通して見えるほどの光がイミテーションを砕き、私は皇帝に抱えあげられた。瞼に焼き付いたのは、皇帝のフレアの光。








『あ…ありがとうございます…ってぅわっ?!』
「もう少し艷のある声は出せんのか…まったく、私の手をわずらわせるな」








…皇帝の綺麗な顔がすぐ近くにある。彼の長い髪が頬に触れる。赤くなる私を尻目に、皇帝は呆れたように口を開いた。

私だって、今のイミテーションがあなたの姿をしていなかったら倒せた。そう言おうとしたが、皇帝の言葉に口を閉ざさざるを得なくなってしまった。









「イミテーションも壊せぬほどでは…とても神になど刃を向けられはせぬな」
『なっ…そ、それとこれとは話が別です!』
「ほう?本当か?」
『ほ、本当ですっ!』







悪戯に笑う皇帝を見上げるも、やっぱり恥ずかしくて目が合わせられなかった。この人は綺麗すぎだ、まったく。
今のことで一抹の不安が出来たが、額に落とされた軽いキスに少し心が軽くなった気がした。









「私がアエリアの力になろう」






見据える先
(そこにあなたが隣にいてくれると信じて)









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