混沌なる世界に光あれ

□心に決めた
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世界を包む混沌の闇が広がるにつれて アエリアは悲しそうな笑みしか浮かべなくなった。私はアエリアの明るい笑顔が好きなのだ。私の心の闇を照らしてくれるようなあの笑顔が。だからアエリアの悲しむ顔など見たくはないし、アエリアを悲しませる神々が憎かった。しかし神々を倒すにはアエリアは優しすぎる。イミテーションすら破壊することをためらうアエリアなのだ。神々を止めたいとは言うが、実際にそれが出来るとは私は思わない。――だから、それは私が。私がアエリアの代わりに。そう考えるようになったのは、イミテーションに襲われたあの少し後の話。









「――アエリア、顔色が優れぬようだが 大丈夫か?」
『カオスの…感情が流れ込んできて、』
「カオスの…?」







突然座り込んだアエリアを見て 私は変に息を詰めた。ただでさえ色白なアエリアの顔がさらに白くなり、青いとさえ言えるほどになっている。相当具合が悪いのか、不規則に肩が上下している。









『カオスが、怒ってる…またクリスタルが』
「いい、アエリア、もう喋るな」




口を開くたびにアエリアは苦しそうに目を細め、私は冷静なふりをしながら彼女の肩を掴んだ。実際私は今かなり平常心を失いつつある。
…以前アエリアは言っていた。自分はカオスの化身のようなものだから、カオスの負の感情が直接流れ込んでくるのだと。しかし…アエリアの体調に影響を及ぼすほどとは、今のカオスのそれはそれほど凄まじいということか。
カオスは、アエリアを苦しめてまで 一体何をしたいというのだ?私には全く理解できなかった。私はアエリアを抱き抱え カオス神殿の玉座に彼女を座らせる。そして玉座の上で小さく身を縮めるアエリアの頭を撫で、私は心を決めた。――このままではアエリアが危ない。しかしアエリアのことだ、自分のことなど顧みず 神々の争いを止めようとするだろう。アエリアはそういう娘だ。そんな無鉄砲なアエリアを 私はみすみす放っておくことなどできない。私が、やらねば。







「―アエリア、お前はここにいろ。他の誰が来てもこの玉座から動くな」
『皇帝…?なにを、』
「私は…コスモスのところへ向かおうと思う。コスモスが信用するに値するかは分からぬが 話をする価値くらいはあるだろう」
『き、危険すぎます…!皇帝の身に何かあったら』
「心配する必要はない。すぐ戻る。だからそれまで…この玉座を守っていてくれ。いいな、アエリア」
『………っ』







まるで子供を諭すような口振りでそう告げると アエリアは何か言いたそうだったが何も言わずに小さく頷いた。こんなに優しい声が出せるなど…誰かのために動くなど…私もまだまだ人の心が残っているらしい。
そんな自分に苦笑しながら 私は立て掛けてあった杖を握りしめ神殿を出た。コスモスに逢ってどうするかは分からない。ただ、少しでも前に進みたかった。アエリアの力になりたかった。
これ以上 アエリアの苦しむ顔は見たくない。彼女を救えるのは私しか…私しかいないのだ。
そう自分に言い聞かせ踵を返すと 背中越しに声をかけられる。








『――マティウス!』
「…………?」
『気を…つけて』
「……あぁ」







聞こえた声はか細いものだったが私の心を満たすには十分で、私は軽く目を閉じて深呼吸をした。
簡単に事が進むとは思えない。失敗する可能性の方が高い。だが、私は………。









心に決めた

(私が必ず アエリアの想いに応えてみせる)








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