混沌なる世界に光あれ

□決断の時
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皇帝がコスモスのところへ向かうと告げてから結構な時間が経った。コスモスに会うなら向かうところは一つ。秩序の聖域だろう。ここから少し離れた場所とはいえ、遅すぎる。何かあったのだろうか?私の不安は募るばかりで、玉座から立ち上がったり座ったりの繰り返しをしていた。




「――アエリア、」
『ゴルベーザさん…』




そわそわと落ち着かない私のもとに ゴルベーザさんが現れた。話を聞けば私のそばにいるよう皇帝に頼まれたらしい。意外だ、あの皇帝が誰かに頼み事をするなんて。それだけ彼は私のことを気にかけてくれているということ。その事に私は少し照れ臭くなったが、本当はそんな余裕はない。



「アエリア、行くのか」
『はい…私、彼を迎えに行きます。待ってるだけってなんかイヤですし』
「そうか、しかし気を付けろ。一雨来そうだからな」







言われて天井のない頭上を見上げれば、確かに少し空の色が悪かった。カオスの気分一つで変わる空色。カオスが機嫌を損ねれば雨だって嵐だって起こる。

私は玉座から立ち上がり、ゴルベーザさんに一礼して神殿を駆け抜けた。

少し走ると、私は暗さを増した空に足を止めた。曇天だ。不気味に揺らぐ空、わずかに鳴り響く地。一体何が起こるというのだろう。カオス、コスモス…神々の考えはやっぱり私には分からない。なぜこんなにも争いを続けるのか。







『―――急がないと、』







私は深く息を吸って 地面を蹴った。





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「コスモスの言葉…信じるに値するのか」





コスモスは私に真相のすべてを告げると、静かにその姿を消した。秩序の聖域に一人残された私は 薄い雲に覆われた空を仰ぐ。吸い込まれそうな光が身を包む。私には合わない、神聖な輝きだ。
それにしても、先ほどのコスモスの言葉…さすがに衝撃的だった。



「カオスは私との戦いを終わらせようとしています。それは構わないのです。しかし、私が倒れれば なんの罪もない戦士達まで消えてしまう。それは貴方たちも同じです。私がカオスを倒しても、貴方たちが消える。それを防ぐために私は彼らにクリスタルを集めるよう申したのです。

しかし、混沌の神子…彼女はどうしようもありません。カオスの力を宿す彼女は カオスの化身のようなもの。カオスが消えれば彼女も消えるでしょう。彼女を救うには、彼女の中にあるカオスの力を消さなければなりません。方法は分かりません。…彼女を救うためにも、クリスタルの力は必要でしょう…」








コスモスはそう呟いて消えた。彼女の言葉が頭の中で響く。
アエリアはカオスを止めようとした。しかしそうすればアエリアが消える?
アエリアの想いに応えるにはカオスを倒さねばならない。私はアエリアに力を貸すと決めた。なのに、これは一体なんの仕打ちだ?
カオスもコスモスもこの闘いに終止符を打つつもりだ。だがそれは…







「…私は、アエリアを、」




守れるのだろうか、いや、守ってみせる。方法はあとから考える。コスモスもきっと何らかの解決策を見出だしてくれる。話はアエリアのところに帰ってからだ。
私は一人頷き、踵を返した。






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雨が降りそうだ。冷たい風が吹き抜けている。それでも構わずに先を急ぐ。早く皇帝に会いたかった。会って安心がしたかった。












『マティウス!』
「――アエリア?なぜここに、」






彼と合流するのにたいして時間はかからなかった。私が名を呼ぶと、驚いたように足を止めた皇帝。抱き着くとまではいかないが、そんな勢いで彼に駆け寄った。





『コスモスには会えましたか?』
「―――、あぁ。いろいろと話が聞けた。戻ったら話そう。さぁ、帰るぞ」
『はい、』







見上げると、皇帝は私の肩に手を置いて歩き出した。比較的ゆっくりな歩き方は 私がちゃんとついてこられるようにするため。そんな彼の気遣いが嬉しかった。この時ばかりは悩みなんて忘れて、純粋な笑顔になれた。











決断の時

(それを迫られるのは そう遠くない日)











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