混沌なる世界に光あれ

□希望
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"真実"という言葉の重みを、これほどまでに感じた時があっただろうか。

コスモスから聞かされたすべてをアエリアに話すには、私には荷が重すぎる。だが他に誰がこの真実を知り得ている?
すべてを知っているのは私だけなのだと思うと、思わず呼吸が苦しくなった。





「…カオスを倒してもコスモスが倒れても、状況は変わらない。だからクリスタルの力が必要なのだ。コスモスは自らが喚んだ戦士達を無事に帰すためにクリスタルを集めさせている。今無闇にカオスを倒すのは時期尚早だ。来るべき時が来るまで待つべきだと、私は思うのだが」
『そう、ですね…コスモスと、コスモスも戦士達を待ちましょうか』




"カオスを倒せば カオスの化身であるアエリアも消える"
そのことをアエリアに告げればきっとアエリアに迷いが生じる。だがアエリアは自分を犠牲にしてでもカオスを倒すと言うだろう。


他に必ず手があるはずなのだ。
カオスを倒してもアエリアが消えない方法が。世界のためにアエリアが消えるなど おかしいではないか。
アエリア自身の真実を伏せたまま彼女にコスモスの話を聞かせると、アエリアは渋々といった面持ちながらも納得したようだった。
これで少なくともカオスに反旗を翻す時期は延びた。その間に考えるしかない。アエリアを救う方法を。

私は極力アエリアに悟られぬよう 話題を逸らそうとした。






「――アエリア、この闘いが終わったら 私と一緒に来るか?」




口に出した言葉があまりにも未来に溢れたもので 少しばかりしまった、と思った。いや、多分私が一方的にそう感じただけだろうが。





『いいですね、皇帝サマの世界に行くのも。でも…』




整ったアエリアの顔に暗い影が射す。
…まさか。









『私は、カオスの化身ですから…多分もうこの世界から出ることはできません。あ、でも安心してください。皇帝サマや他のみんなは必ず元の世界に戻れるようにしますから』



穏やかに笑みを浮かべたアエリアが痛々しかった。同時に全身が鉛のように重くなる。コスモスからすべてを聞かされたときと同じような。

――アエリアはこの世界から出られないだと…?

馬鹿な、誰がそんなことを承知すると思うか。
何故アエリアがそんなに悲しく笑わなければならぬのだ。

私は込み上げる何かを押さえながら、精一杯余裕を持った声音で告げた。





「…安心しろ、アエリア。たとえお前がこの世界に閉じ込められようとも 必ず私が連れて帰るぞ。私はアエリアを后にすると決めたのだからな」
『き、后?!本気ですか皇帝サマ、』
「私はいつも本気だ」
『…皇帝サマも冗談言うんですね』
「…………」




何故そこでそうなる。私は冗談など言わぬ。
…というか、私を見上げるアエリアの目が妙に呆れ返っている感じがしてならないのだが。

だがアエリアの表情は先ほどより明るくなった。
后にすると言ったことを冗談だと思われるのは何やら複雑だが、今はアエリアに笑顔が戻っただけでも良いとしておくか。









『……マティウス』
「………?」
『ありがとう』
「…………あぁ」








思わず口元が緩む。私はアエリアに見えぬよう小さく微笑んだ。
――その言葉だけで 私は十分救われた気がした。
何とかなる、と本気で思えた瞬間だった。










希望
(その笑顔に希望が見えた)









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