混沌なる世界に光あれ

□突き刺さる混沌の刃
1ページ/1ページ


あの後一人になった私は、私なりにいろいろ考えた。あの人は何か隠しているような感じで、それは多分私に関すること。彼が私に言えないほどのものが私にあるのなら、それは私自身が何とかしなければならない。あの人が悩むようなことではないのだ。





『…これ以上、あなたを巻き込むわけにはいかない』



考えて考えて、ようやく私は決心した。私は一人でカオスを倒す。たとえ相討ちになろうとも。
コスモスには悪いと思う。それ以上にあの人にも悪いと思う。でもやっぱり、巻き込みたくはないから。
そして何より…時間が、時間がないんだ。残された時間が。




『……ごめんなさい、マティウス。』





これはせめてもの気持ち。
私一人の犠牲で何とかなるのなら、それでいいじゃないか。
カオスの化身である私がカオスと共に消えれば、きっと他のみんなに被害が及ぶ可能性はない。




『…本当はあなたの世界に行きたかったけど、本当はずっとあなたの隣にいたかったけど』




嗚呼、願いや望みなんて泡沫の夢だ。少なくとも私はそんなものを抱いてはいけなかったんだ。
結局何もかもが叶わないのだから。

だからせめて、私の手でこの闘いに終焉を。

私はゆっくりと顔をあげ、重い足を引きずるようにしてカオス神殿を出た。向かう先は、もちろんこの先。真の混沌を見据えて玉座に構えるカオスの元。



















「――カオスの元に行くのですか、神子」

『コスモス…』




背後から聞こえた声にふと振り向けば 神々しい光を纏うコスモスがいた。その顔は悲しげな色を浮かべている。




「もう少し待てはしないのですか。せめて彼らがクリスタルを手にここに来るまで」

『残念ながらもう時間がないのです。カオスは私が倒す。あなた達はその先のことを考えていればいい』










世界に残された時間も、私自身に残された時間ももう無い。

…カオスの禍々しい力がこの身体を蝕むのが分かるんだ。

多分、このままだと私はカオスの思いのままに動く傀儡になる。




「……神子、何故あなたはそうまでして、」

『さぁ、何故でしょう。ただ大切な人を失いたくないだけ、でしょうかね』



大切な人を失いたくない、傷つけたくない。それは純粋な気持ち。あの人に対する、精一杯の想い。

しかし本当に…混沌をもたらす身の私が、一体何をしているのだろう。まぁ、今さらだが。

私は前を向き直り、再びゆっくりと歩き出す。彼女は私の背を見つめたまま何も言わなかった。
























「…何をしに来た?アエリアよ」

『――今さらですね、カオス。私の考えなど筒抜けでしょうに。』

「ならば訊く。一人で何ができると思っている?」

『さぁ、何ができるでしょう…少なくとも、あなたを止めることくらいはできるかと』

「過ぎた口を…所詮世界は真の混沌に包まれる。すべて無に帰す」

『させない…それだけは、させない!』





カオスの構える玉座に、一段一段ゆっくりと近づく。
その声はまるで地鳴りのように私の身体を揺らした。身が凍てつくようだ。

事後処理はコスモスの戦士達に任せる。世界の行く末も彼らに託す。

…とはいえこれはあまりにも無謀すぎたか。
私は自嘲に近い笑みを浮かべて前を見た。そして腰に差した剣を手に地面を蹴る。









『混沌の神よ…帰るべき場へ帰るがいい!』




剣をカオス目掛けて振り下ろす。だが私の刃はカオスに届くことなく地面に突き刺さった。…一瞬だった。一瞬でカオスは私を凪ぎ払い、その場に伏せさせたのだ。
私はキツくカオスを睨み上げ、自分の持つ最強の黒魔法を唱える。



「ぐ…愚劣な…!」








黒魔法の眩い光とカオスが発する禍々しい闇が交錯する。
そんな中で私が最後に目にしたのは、不気味に唸る空と自分の身体を包み込む闇の漆黒の色だった。






突き刺さる混沌の刃

私はあの人の思い出くらいにはなれたのだろうか
(だとしたら私は 本当に幸せだと思う)






.


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ