novel
□murderer
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人の気配を感じない
日は頭の昔に沈んだ闇夜
街灯もない路地裏
冷たい風が吹くそこに
「また、貴方なのか……」
一人、佇む
女
ジャリ、と足を一歩踏みだし、ゆっくりとしゃがみ込む。
その足元には、既に冷たいニつの死体。
彼女は怖れも無く手を伸ばし、死体の腕を持ち上げた。
「爪……と、足首には釘。そして心臓に一発。コイツだけか」
様子からして、死体は彼女が作ったものではないようだ。
状況を声に出して確認している。
それは、軽い拷問のような殺し方。
しかしもう一体の死因は、ただの刺され傷による出血多量と思われる。
その死体の血だまりが、それを物語っていた。
女は再び立ち上がり、改めて死体を見降ろした。
闇に溶け込む漆黒の髪
闇を受け入れる漆黒の瞳
闇に紛れる漆黒の服
死に慣れたその姿は凛凛しく、戦いを知っているであろうことは見てわかる。
正確にはそのオーラで、だろうか。
だがしかし、女はまだ若い。
「雨か……、まずいな」
ポツリと降り出した雨。
女は空を見上げ眉を寄せると、死体に背を向け、ゆっくりと歩きだした。
その死因が何を意味するのか
彼女はまだ
重く考えてはいなかった
だが彼女の意思に反して
物語は既に進んでいる
冷たい風は突風に変わり
女は姿を消した
murderer
――…