novel
□murderer
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「思った通り、また同じ殺られ方」
薄暗い部屋で一人、女は電話に向かってそう言った。
濡れた髪をタオルで乾かしながら、ソファに座り、溜息を吐く。
雨で冷えた身体はすぐにシャワーで温めたが、どうやら彼女は不機嫌のようだ。
電話への声も、素っ気無い。
とある宿の一室。
“そうか……。だが狙いが見当もつかん。奴らを拷問せずとも、私の場所は探し出せるはずだ。何か別の目的があるのだろうが……”
「別に貴方を殺したいわけじゃないんじゃない?」
“…まさか他の依頼人を全て殺し、武器を独占しようとしていたりっ……、あるいは私と商売をすると死ぬことから、客を無くす嫌がらせか……!”
「さあ……。まあ報酬、よろしくお願いしますよ」
“待て、○○○、私にはもう雇っている者がお前しか残っていない!”
「また雇えばいいでしょう」
“それは勿論だが、信用に足らん。それに次の流通相手も既に決めている。”
「…また殺されるかもよ」
“捨て駒の客だ。次は多勢で向かわせるからその様子をお前は監視しろ。そして奴が現れても戦うな、まずは帰ってこい。詳細はまた連絡する”
半ば強制的に切られた電話に、女は苛立ちを隠せず、電話を床に放り投げた。
そのまま身をソファに委ね、再び溜息を吐く。
深い、深い溜息を…
○○○
名をそう呼ばれた女
今は闇商売の武器流通会社に雇われ、資金を稼ぐ殺し屋。
雇われているのは○○○の他に2人いる。
しかし厄介なことに、その二人が続けて輸送相手との取引中に殺された。
買い手も殺されているので、犯人は第三者と思われる。
そして次は自分…
だから機嫌が悪い、というわけではなく、この面倒な事件自体が彼女をそうさせているのだろう。
「…仕方ないな」
だからと言って気にならないわけではない。
あの殺し方は、プロならわかる、プロの技。
殺しを職に持つ○○○も、その強さが気になったようだ。
○○○は重い身体をソファから起こし、パソコンの前に向かった。
事の発端は、2週間前だった。
「…戻らない?」
「ああ、携帯も繋がらん。奴は力もあるしそう易々とやられるとは思わんが……。確認だ、確認」
「……振り込み、頼みますよ」
雇い主が、仕事を任せた他の運び屋が戻らないことを不安に思い、○○○に確認をしに行かせた。
現場は今夜見たものと同じ。
取引相手は殺され、運び屋は拷問を受けたような跡があり、そして胸に一刺し。
ただ一つ今夜と違うと言えば、取引相手が雇い主とは友好的な良い商売相手だったことだ。
雇い主は警戒し、今夜は恨みある取引相手にしたところ、見事な結果に終わった。
「荷物もちゃっかり奪われてるとはいえ、拷問する必要があったのは…」
○○○はパソコンにハンターライセンスを入れ、ハンター専用情報サイトに潜り込んだ。
拷問をしたということは明らかにこちら側の何かを知りたかったのだろうが、それにしては拷問が軽いと思われる。
その程度で話してしてしまうほど弱い運び屋達ではなかったはず。
それとも話しても彼らに支障のない情報…、となると拷問をする必要はない。
「趣味だったりして」
なんて鼻で笑いながら、○○○はその出来事の犯人についてを調べ上げた。
エンターキーを押して、○○○はまた笑った。
「フッ、ハンターサイトでも知らないことはあるんだね」
確信に繋がる情報がない。
辛うじてその日その街にいたハンター及び殺害しそうな人物の名簿は上がっているが、何分大きな街だった故、その数を調べるには朝までかかりそうなほどにある。
○○○は少し項垂れ、それを調べるのを止めた。
一つページを戻り、また情報一覧に戻る。
そこでふと、一つの項目に目が止まった。
それは、この2件の事件の直前の仕事に関わるもの。
今回の運び屋達が殺された2件の仕事の直前は、○○○の仕事だった。
それは運びの依頼ではなく、殺しの仕事。
脅してまで安く買い取る取引先のマフィアノボスの暗殺だった。
「私は殺してすぐ姿を消したはず…」
痕跡は残していないはずだが、さすがはハンターサイト、都合の悪いことはある。
そう毒づきながらも○○○はその項目をクリックし、料金を支払った。
「これはっ…」
しかしそこにあったのは、予想に反した内容だった。
――
ヴァリオーネファミリーボス
殺害及び貴重宝物を盗まれる
幻影旅団により……
――…