潔く、美しい赤

第6話
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朝、いつものようにランニングをした後公園に向かう椛。
近づくにつれて聞こえてくるボールのつく音に首を傾げた。


『(あれ?この時間に先客なんて珍しい)』



椛がリングを使う時間帯は朝早いせいかいつも誰もいないのだが、今日は珍しく誰かいるらしい。

ひょこりと公園内を覗けば男が1人。

見知った顔だったので、椛は公園内へと足をむけた。



『おはよう、今日は早いんだね』


その男とは流川楓。頭には包帯が巻かれたままだ。


『病院行った?』

「行った」

『大丈夫だって?』

「オカゲサマで」


それを聞いた椛は、よかったねと微笑む。



「昨日は…どーも」

『ん?』

「頭」

『…あぁ、いえいえ』

「……ジャージも」


その言葉にキョトンとしながら流川を見上げる椛。



『もしかして…それ言う為に早く来たの?』

「……別に」


若干居心地悪そうに頭をかいた流川はふいっと視線をそらす。
自分でも、わざわざいつもより早起きしてまで来た事に戸惑っていたのだ。



『わざわざありがと』


そんな流川に微笑んだ椛は、ベンチに鞄を置くとボールをだし再び流川に近づく。





『ねぇ、シュート勝負しない?』

悪戯っ子のような笑みを浮かべながら聞いてくる椛に、流川は数秒間遅れて「上等だ」と言葉を返した。












どれぐらいシュートを放っただろうか。


『よしっ。あたしの勝ち〜』

ガコンと弾かれる音を聞き椛はニヤリとした。

「む‥」


先に外した方が負け、というルールで始まった勝負。


はじめはどちらも外さず時間が過ぎるばかりで、ならば3P限定の勝負にしようと切り替えて続行していた。

そしてたった今、流川が外したのだ。



『あたしの勝ち』

「…何回も言うな」

『ぃだっ…!!』


嬉しそうに見上げてくる椛の額にデコピンを放った流川。
確かに1本も外してない椛が勝ちなのだが…やはり少し悔しい。


『暴力反対』

涙目で額をさする椛から視線をはずすと、落ちているボールを拾いあげる。


『普通に1on1すれば勝てないからシュート勝負にしたんだけどね。あと…その頭の事もあるし、あんま動かない方がいいかと思って』

まぁシュートだけならあたしにも可能性あるし、と笑いながら椛は持っていたボールを放った。
機械のように正確に入る。何度みても綺麗なそのシュートフォームは手本のようだ。




「…いつからバスケやってんだ」

『んー…小学生?でもお兄ちゃんの影響だから、関わってたのは幼稚園からかな』

「…兄貴上手いのか」

『うん。今3年だからもしかしたら勝負する事あるかもね』



上手いと言われると燃えてくる流川は、ほぉ‥と興味を示す。


『他にも上手い人沢山いるし…楽しみでしょ』

「…まあ」

『なんか流川って人一倍負けん気強そう』

「む……わりーか」

『はは、ううん。あたしそーゆう人好き。やっぱ負けん気や向上心は強くないとね』




その後も楽しそうにバスケの話をする椛から流川がなんとなく目を離せないでいると、時計をみた椛があぁ…と声をこぼした。


「焦る時間か?」

『ん、違うけど…まぁちょっと色々あってね』

「ふーん」

『ありがとね、楽しかった』


じゃあまた学校で、と手を振り公園を出ていく椛を見送りながら、流川はふと考える。




「(…うちの高校女バスないよな?)」


バスケの話をしている時の椛の顔を思い出しながら、流川はリングにボールを放った。



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