潔く、美しい赤
□第9話
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『あ、りっちゃんおはよー』
教室に入ってきた友人にヒラヒラと手を振る椛。
どことなく機嫌がよさそうに見えるのは、律子の勘違いではないだろう。
「おはよ、なんかご機嫌ね」
『そう?』
「まあ大方予想はつくけど」
付き合いが長い律子にとってはわざわざ聞くまでもない理由な為おもわず苦笑をもらした。
1年は、今日から部活動がスタートする。
マネージャーといえど部活や体育館のあの雰囲気などが椛は待ち遠しいのだ。
「毎朝バスケしてんじゃない」
『それはまた別。バッシュのすれる音がしたりするのは体育館だけでしょー』
整った顔を惜し気もなく崩しニヘっと笑う親友に、律子は呆れた表情を浮かべる。
「よかったねェ」
『うん!』
まあ今にはじまったわけではないこーゆう椛の一面には慣れたものだ。
数日前までの悩んでいた友人の表情を思い出すと、これでよかったんだなと律子は安堵の笑みを浮かべた。
「そういえば帰りはどうやって帰るの?」
『え?歩いて』
「それ…龍司くんは許してくれたの?」
『…言うわけないでしょ。言ったらアイツ迎えにくるじゃん』
「…だよねェ」
"龍司"とは、1つ下の椛の弟だ。
兄の"健司"と椛と同じくバスケを好み、中学のバスケ部に所属している。
極度のシスコンで、毎朝椛を自転車で送る程だ。
往復の時間もあるので、龍司が遅刻しない為にも実は椛はやけに早い時間に登校していたりする。
『さすがにもうそろそろ姉離れしてくれなきゃ…高校は別になるんだし』
「たしかに…小学生の時からずっと登下校一緒にしてるもんね。てゆーかあれは着いてきてるって感じだったけど」
言いながら律子は中学時代を思い出して苦笑した。
高校に入ってからは、龍司がごねた為とりあえず帰りは迎えに来ないという条件で椛は朝の送りを承諾している。
今日までは律子の自転車に乗っけてもらっていると理由づけできてたからいいが、ここで弟にこれからは歩いて帰るからと言ってしまうと、夜道は危ないだのなんだの理由をつけて部活をサボって迎えに来かねないのだ。
「龍司くん翔陽?」
『ん、その予定』
姉離れしてくれない弟に、椛は小さくため息をつきながらも結局自分も弟には甘いなァと1人苦笑した。
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