潔く、美しい赤
□第18話
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朝、学校に集合した流川はおもわず周りを見渡した。
「(…いねー)」
椛の姿が見当たらない。
朝は、公園にいたのだが…。
「なーに流川、もしかして椛探してる?」
不思議に思っていれば、近づいてきた彩子にその理由を聞く事ができた。
「直接駅に来るわよ」
ドリンクの粉が無い為、椛は買いに行ってから駅で合流するらしい。
なんだそうかと納得していれば、ニヤニヤとした表情の彩子にヒジでつつかれた。
「アンタ、結構積極的ね」
「何が…?」
「女子の荷物をすすんで持ってあげる流川楓なんて、アタシ初めて見たわよ」
少し考えてからあぁと小さく声をもらす。椛との事を言われたのだと理解した。
「この前までよくわからないとか言ってたけど…完璧に、惚れちゃってんじゃない?」
彩子の質問に、頷きながら流川はうす…と返事を返す。
あまりにも素直すぎる反応に、彩子は目をパチクリとさせた。
「恋って時に人を変えちゃうのねー…」
珍しい流川の行動には、ただただ驚くばかり。
「(恋愛とは無縁な椛には多少積極的でもいいのかも)」
ふとこの前の椛の様子を思いだすと、彩子は僅かに苦笑をもらした。
「ぬ…?あれは椛さん…?」
「あら、本当だ」
駅に近づきなにやら桜木が声をあげた。視線の先を見れば、離れているがそこには確かに後ろ姿の椛が立っている。
それと何故か一緒に、自転車に股がった同じぐらいの歳の男もいた。
「誰だあの男は…!?」
「……」
湘北の集団に気づいた男が椛に何かを言えば、椛が振り返りこちらに手を振る。
「彩子さん…!!誰ですあの男!?椛さんと随分親しげですよ!?」
「し、知らないわよ」
謎の男の登場に、主に桜木が誰なんだと騒ぎたてた。
『遅れたかと思った』
近くに行けば、微妙な空気を気にもせずおはようと部員達に声をかけてくる椛。
おもわず、流川の眉間にも僅かだがシワが寄った。その男は誰なんだと。
しかし何処かで見た気がする、と頼りない記憶の糸を辿っていれば、驚くべき光景が目に入ってきて思い出すどころではなくなってしまった。
『ありがと龍司、帰ったらついでにコレ冷やしといて』
「わかったー…あ、椛」
『ん?…ちょ、……いい加減外ではやめて』
「たまにはいいじゃんケチー」
自転車に股がったまま甘えるように椛に抱きつく男。椛も慣れているようで、ため息をつくとポンポンと背中を叩き離れるように促していた。
「なっ……!?」
固まる桜木。他の皆も声にならないような声をあげ、流川も目を見開く。
まあ自分も昨日どさくさに紛れて抱き締めたが…他の人物がそれをするのはさすがに気にくわない。
皆が固まったままでいれば、椛から離れた男は「姉をよろしくお願いします」と人懐っこい笑顔を振り撒きその場を去って行った。
「……え、姉?誰が?」
いち早く我に返ったのは彩子。
椛は彩子の言葉に自分を指差す。
「え!?じゃあアレが…弟?」
『そう、弟の龍司』
頷く椛の言葉に一同ゆっくりと息を吐き出し、なんだそーだよな、びっくりした、と思い思いの言葉をこぼした。
「それにしちゃ、なんて言うか…随分と椛にベッタリね」
『いつもあーなの。昔から』
果たしてアレが年頃の弟のする行動だろうか。
はたからみれば、ただのイチャイチャカップルにしか見えない。
特に気にしていなそうな椛をみて、そこにいた誰もがそう思った。
「(驚かせやがって…どあほう)」
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