潔く、美しい赤
□第3話
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湘北高校1年9組。
『おはよりっちゃん』
「あら、今日遅かったね」
『まあ』
「いないから休みなのかと思ったよ」
栗色の長めの髪を揺らし教室に入ってきた女は藤真椛。このクラスの生徒だ。
りっちゃんと呼ばれた黒髪のベリーショートの女は高梨律子、椛同様このクラスの生徒で、椛とは小学生の頃からの親友である。
「…あれ、なんかあった?」
『ん?うん。実はさ─…』
長年の付き合いから、どこかいつもと違う気がした律子は椛の顔を覗きこむ。
椛はそれに僅かに苦笑すると、鞄の中身を出しながら今朝公園であった事を思い出し律子に話した。
「へー!その人タメ?」
『んー…わかんない。なんとなく上?』
「どこの人?」
『知らない、歳も名前も聞いてないし』
珍しく楽しそうに話す椛をみて興味をもった律子だったが、肝心な事を何一つ聞いていない親友にため息をこぼした。
「え〜、折角だからどんなか知りたかったのにー。あっちは?何も聞いてこなかったの?」
『うん、ただバスケしたかった感じ。全然喋らなかったし』
「なにそれ、椛みたいな人ねその人」
『どーゆう意味』
つまんな〜いと言いながら、律子は机にほお杖している椛の髪をいじる。
されるがままだった椛だが、数秒後何かを思い出したように律子の顔をみた。
「ん?」
『…高校だけ聞かれた』
「へぇ〜、なら椛も聞いてくればよかったのに」
『忘れてた』
今まで男に興味を示さなかった椛。告白は幾度となくうけているが全て断っている。
別に男が嫌いなわけでもないが、まわりの女子達のように「○○君カッコイイ」等という興味がわかないのだ。
兄と弟をもち、男への関心がないからか誰かに恋した事もない。
興味があるのは主にバスケとピアノ。それ以外は何となく無関心だ。
今回はたまたまバスケが関わってるからなのだろうと律子は思った。まぁ少しは何かあるのかと期待もしてはいたのだが。
『‥‥?何アレ』
既に意識は別なとこへいっている椛。その視線の先にはなにやら廊下に女子が数人群がっていた。
それをみた律子はなんだそんな事かと言いたげに、ああ‥と呟く。
「流川くん見物よ」
『…カッコイイ人?』
「そっ、まあなかなかの容姿だったわよ。しかもデカイ」
『ふーん。入学して早々すごいねぇ』
「・・・・」
自分で聞いたわりに興味なさそうにしている椛の言葉に、律子は先程からコチラを気にする廊下に群がる男子数人をチラリと見据える。
「いや、アンタも負けてないって」
『ん?何?』
「なんでもないわよ〜」
虚しい結末を迎えるであろう男子達の恋心に、律子は心の中でそっと手を合わせた。
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