潔く、美しい赤
□第4話
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「(…めんどくせー)」
昼。
弁当箱をしまいながら自分の鞄を覗き考えこむ流川。
そこには椛のジャージが。
─はい、コレ!ちゃんと洗っておいたから返しとくのよ〜♪?─
─・・・・─
今朝の母親の台詞がよみがえる。しかも何故か楽しそうな声音。
余計な事をしてくれたものだ、と流川はおもわずため息がでた。
返すのは本人にどーするか聞いてからでいいかと考えていたのに…
どうやら勝手に鞄の中からだして洗っていたらしい。昨日の今日だというのにやる事が素早い。
このまま持ち帰っても何か言われるのは目に見えている為、しょーがない、と立ち上がると鞄の中からジャージをとりだした。
「(……いない?)」
9組の教室を前のドアから覗き見回すが、椛の姿が見当たらない。あの髪の色ならそれなりに探しやすいのだが…そう思っていると、茶色い頭を発見した。
‥‥机に突っ伏して寝ている。
これまたどーしたものか。
そのへんのヤツに頼んで渡してもらうか‥?
そんな事を思っていると、流川の視線に気づいた1人の女子がドアへと近づいてきた。
「もしかして‥椛に用?」
それは律子で、若干ニヤリとした表情を浮かべている。
実は律子、朝椛からバスケした相手が"ルカワ"だと聞いていたのだ。
内心ものすごく面白がっていたりする。
「‥椛?」
「藤真椛、あれ」
「…おー、それ」
下の名前を忘れかけていた為、流川は一瞬誰の事だかわからなかったが、フルネームを言われたうえ目的の人物を指されたのでコクりと頷いた。
コイツに渡せばいいか、そう決めたところで女が椛を起こしに行ってしまう。
「(‥別に起こさなくても渡してくれりゃいいんだよ)」
バシッと頭を叩かれている椛をみながら1人愚痴る。
やがて起こされた本人は、流川の姿を確認すると席を立った。
『はぃ‥なーに?』
「……ジャージ」
流川の前まできたはいいが物凄く眠そうにしている椛。
『……』
「……」
『……』
「…おい」
『あ、ルカワ』
目の前にだされたジャージをぼーっと眺めた後、見上げた先の顔もぼーっとみつめ、やっと流川だと認識した。
だされたそれを受け取ると、あれ?と声をあげる。
『これ…もしかしてわざわざ洗ってくれた?』
「らしい」
『そのままでよかったのに。ありがと』
まだ若干眠そうな目の椛がふにゃりと笑ったのを見届けると、用事を済ませた流川はそのまま自分のクラス…ではなく屋上へと向かった。
椛もすぐに席へと戻る。
「バスケしたって相手マジで流川くんだったのね〜。しかし本当無愛想ね」
『んー…』
席に戻った椛は、楽しそうにしている律子に相槌をうちながら、ジャージを枕に再び眠りについた。
なんだそうだったんだ
『(…んー…石鹸の香り……)』
「(…あ、礼言うの忘れた)」
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