潔く、美しい赤
□第5話
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『…あれー、不在?』
保健室につけば先生はいない。
恐らく時間帯的に職員会議なるものをやっているのだろう。
『とりあえず…はい、コレで拭きなよ』
椅子に座らせた流川に保健室にあったタオルを渡した椛は、適当に血を拭う流川を見ながらどーしたものかと考える。
『あたしが手当てしちゃうか』
「‥‥‥」
『‥‥何』
「別に」
どこか思い付いた的な表情の椛に、お前で大丈夫なのかという視線を送った流川だが、それを察知した椛にじとっと見られなにげなく視線をずらす。
『前髪。少しあげてて』
カラカラともうひとつの椅子を持ってきて流川と向かい合わせになった椛は、消毒液がついた脱脂綿で傷口を拭いはじめた。
「……」
その痛みからか若干眉間にシワを寄せた流川を見て、フッと小さく笑う。
「…んだよ」
『なんか…あんま痛そうな表情してないくせに、やっぱ痛いんだなぁって思っただけ』
ギロッと睨んだ流川に臆する事なく微笑む椛。再び視線を傷口にむけるとテキパキと処置を続けた。
「……」
黙ったまま手当てをされている流川は、そのまま目の前の椛の顔をじーっと眺める。
「(……おお…目がすげー茶色い……髪と同じ色してる)」
すごくどーでもいい事だがこんなに近くでマジマジと見たのは初めてな為、見れば見る程自分の黒い瞳と違うそれをおもわず凝視。
そーいえば…と、いつだったかクラスの奴らがなにやら椛について可愛いと騒いでいた事を思い出した。
「(…まぁ、整ってるのか)」
普段から女に興味もわかない流川にとって、女の容姿について考える機会なんてない。
しかしそんな彼から見ても、まぁ納得のできる容姿をしている。
「(…白い…細ぇし)」
自分自身も肌は白い方だが、椛はそれ以上に白い。そして細い。
ガリガリという感じではないのだが、よくこの細さであんなにもバスケで力強く動きまわれるのかと少し不思議なくらいだ。
『んー、おしまい』
その声で、考えていた思考をストップさせた流川が頭に手をやれば包帯が巻かれていた。
『手は?』
「…手?」
『殴ったりしてないの?』
「…した」
殴ったところをみるが少し赤くなっているだけで、別にケガしてはいない。それをチラリと見た椛も、大丈夫そうだねと判断した。
『手はバスケするには大事なものなんだから、喧嘩は程々に』
使ったモノをかたしながら話す椛に、別にいつもしてるわけじゃねー‥と思う流川。だがそこはあえて黙っておいた。
『…少し、ベッドで休んでから帰れば?休むなら先生に言っておくよ、あたし職員室に用あるし』
「…そーする」
『じゃ、あたし行くね。お大事に』
のそりとベッドにあがる流川を確認すると、病院は行きなねーと言いながら椛は保健室をあとにした。
ケガにご注意
『(頭突きって額があんな切れるもん?)』
「(…あ、また礼言うの忘れた)」
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