潔く、美しい赤
□第12話
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「あーそうそう練習試合きめてきたから、陵南高校」
大きなお腹を揺らし体育館に入ってきたおだやかな人物。
湘北バスケ部の監督安西から、のんびりとした口調で告げられたニュースに2、3年の部員達は驚きの声をあげた。
『陵南…』
「見たことある?」
『うん、生で見たのは去年の冬だけだけど』
部員達より一歩後ろにいた椛は、おぼろげに陵南の試合を思いだし1人の男の存在を思い浮かべる。
『(…勝負してみてどんな反応するかな)』
「なによニヤニヤして。なんか楽しい事でもあるの?」
『…ん?うんまぁ』
間違いなく湘北のエースになるであろう男にチラリと視線をうつすと楽しみだなァと小さく笑った。
その後、安西監督の指示で1年対上級生の試合が行われた。
期待の新人なだけあって、皆を驚かせ見学していた女生徒3人プラス晴子のハートをしっかりつかんでいた流川のプレイ。
『…そーいや流川の試合してるとこ初めてみたなァ』
練習終了後、モップがけを手伝っていた椛がふと思い出したように呟いた。
横で同じようにモップを手にしていた流川は、まあそうだろうなァと無言で目だけ動かす。
「…え?3年になってからは知らないけど、アタシがいた時はあんたの学校とうちの学校何度か練習試合した事あるわよ?」
それを聞いていた彩子の言葉に椛は首を傾げ流川に視線をおくる。
すると流川も覚えがなく、無言で彩子に視線をおくった。
「椛2年の時レギュラーで出てたでしょ?」
『うん』
「アタシその姿何度か見てるし…アンタ一時期ちょっとうちの部員達の話題になってたから、間違いないわよ」
「……」
『あたし?』
首を傾げる椛と、僅かに眉を寄せた流川。
同じ母校の先輩マネージャーがそう言っているのだから、間違いではないらしいがどーもイマイチ思い出せない。
「そりゃあんなプレイする女がいたら、話題にもなるわよ」
何かしたっけと考えこむ椛を横目に、思い出せない流川は考える事を放棄しモップがけを再開した。
「(だから見覚えあったのか…?)」
入学式当日に感じたのはこれだったのか…と、思い出せないがとりあえず1人納得してみた。
『彩ちゃん、ついでにこれ片しちゃうね』
「あら悪いわね」
『じゃあ、お疲れ様ー』
荷物を抱えたままヒラヒラと手をふる椛に、部員達もお疲れーと声をかける。
モップを片しながらそれを見ていた流川は、ふいに彩子に呼び止められた。
「ねえ流川、あの子歩いて帰ってるの知ってた?」
「…は?」
「椛。けっこう家まで距離あるのにね、なんでか徒歩なのよね」
それがなんなんだと言わんばかりな顔の流川に、彩子はある事を提案する。
「送って行ってあげれば?」
その言葉に眉を寄せると、なんでと短く返した。
「夜道とかって危ないじゃない?…ああでも椛って一応柔道とかの経験あるらしいから大丈夫かしらね」
自己完結しお疲れと去る彩子に内心疑問をいだきつつも、流川は何事もなかったように部室へと向かう。
「(反応うすいわねェ…勘違いかしら)」
つまらないわ〜と彩子の呟きは、誰にも聞かれる事はなかった。
部室に行けばお疲れと桜木を除いた他の部員達に声をかけられる。
自分のロッカーをあけタオルを取り出した流川は、汗を拭きながら彩子の言葉を考えていた。
「(柔道…)」
以前、椛によって床に転がされていた男子生徒を思い出す。
「(大丈夫だろ)」
送る必要性はないだろと結論づけるも、椛の顔がちらつく。
それと同時に、何故か無防備に屋上で寝ていた時の姿も過った。
「………」
「…っわ、流川くん!?」
「なんだ?ルカワのヤロー。さては腹でも壊したかザマーミロ」
バンと勢いよくロッカーを閉めたかと思えばなにやら急い出ていった流川に、同じ1年の桑田が驚いて声をあげる。
それを見ていた桜木は、ケケケと楽しそうに笑っていた。
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