潔く、美しい赤
□第11話
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寝返りをうった椛はうっすらと目を開けた。
『ったた…』
かたいコンクリートの上で寝ていたせいか体のあちこちが痛い。
ボーッとする頭のまま腕時計に目をやれば今は昼休みで、あと15分程すれば5限目がはじまる時間だった。
『…あちゃー』
用事があった為、学校へ来るのが遅れた椛は3限目の途中で登校していた。
本来なら、4限目がはじまる前には教室へ行くはずだったのだが少しウトウトするどころか熟睡してしまったせいでだいぶ予定が狂ってしまった。
微妙に1人苦笑すると、むくりと体を起こし小さく伸びをする。
『…ん…?』
寝すぎたなァと考えていれば、ふと自分の足にかかる学ランの存在に気づいた。
どおりで制服で寝ていたわりに足が寒くなかったわけだ…と1人納得しながらその学ランを手にとると小さな声をもらす。
『…流川』
いつ来たのか知らないが、どうやらこれはあの流川がかけてくれたモノらしい。
椛は学ランの内側に"流川"と縫われた刺繍を見つけ意外そうにそれを見つめた。
前にも少し思ったが、意外に優しい所がある
そんな事を考え薄い笑みを浮かべると、立ち上がり自分の制服をはたき鞄を拾いあげ屋上の扉へと向かった。
『……?』
ドアノブをひねり、屋上の扉を押し開けようとした椛は、おもわず首を傾げる。
…開かない。
引き戸だったかなと引っ張ってみるがやはり動かず。
もう一度押してみれば、今度は数センチだけだが扉が開いた。
『(…何かある?)』
扉は一応開いたが、何故かそれ以上開かない。
どうやら向こう側に何かが置いてあるようで、それが妨げになっているらしい。
とりあえず一度戸を閉めると深呼吸をし、今度は勢いよくその扉を押し開けた。
「って…」
ドン、と鈍い音と共に聞こえてきたのは人の声。
てっきり何か物が置いてあるとばかり思っていた椛は、その声を聞き目をパチクリとさせた。
『…大丈夫で…あ』
先程よりも開いた隙間から顔を覗かせると、そこにいた人物と目が合う。
「…いてェ」
そこにいたのは流川で、寝ていたらしく起き上がり眠そうにしている。無愛想なその顔を、椛は不思議そうに見つめた。
「…どあほう」
『う、…ごめんね』
やがて小さなため息と共に吐き出された言葉に、椛は苦笑いを浮かべる。
『何でそんな所にいたの?』
「……」
質問にどう答えていいか思いつかなかった流川は、無言で椛を見た。 自分でも、なんでここで寝たのかうまく説明できない。
互いに見つめ合ってても答えはでず。答えを待っていた椛だったが、フイッと流川の視線が自分から反れた為にまあいいかと笑って流した。
『コレ、ありがとうね』
にへっと笑うその顔を横目に、立ち上がった流川はどこか落ち着かない気持ちで渡された学ランへ袖をとおす。
自分のモノなのに、僅かに違うニオイがして変な感じだった。
胸の中で何かがざわめく。
『あ、5限目はじまっちゃう』
「(…やっぱ調子狂う)」
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