潔く、美しい赤
□第11話
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「あ、椛ちゃん!」
5限目の終了後、トイレから帰っていた椛は廊下で名を呼ばれたので、立ち止まると声の方に振り返った。
『あ、っと…晴子ちゃん』
そこにいたのは赤木キャプテンの妹、晴子。
時々部活を覗きにきて彩子と親しく話しているのがきっかけで、椛も話すようになったのだ。
「ごめんね、なんか椛ちゃんてあんまり校内で見かけないからつい声かけちゃった」
『そう?…あ、晴子ちゃん今日は見に来る?』
「今日は多分行かないと思う」
『そっかー、残念』
この2人が話しているとのんびりした空気が流れる。
お互いバスケ好きともあってすぐに打ち解けたが、はじめ全く似ていない兄と妹になんの冗談だと椛が思っていたのはナイショ。
「桜木くん、どう?」
『まだ1週間しか経ってないからなんとも言えないかなァ。基礎が不満そうだし』
「そっか〜頑張ってほしいなァ」
『大丈夫、晴子ちゃんの目に狂いはないと思うよ。あたしも結構期待してる』
体育館の隅、彩子にハリセンでどつかれながらドリブルをする桜木を思い出し、椛はフフッと小さく笑った。
「あ…る、流川くんは?」
『ん?流川?』
少し聞きづらそうに尋ねる晴子に首を傾げつつ、椛は先程屋上で会った男の部活中の姿を思い浮かべる。
『んー…いつも通り、ずば抜けてるかな。あ、そーいえばね見物客が増えた』
「け、見物客…?」
『そう、彩ちゃんが言うにはなんか流川目当てできてるらしいよ』
「そうなんだ…」
これが決め手となって、やっぱり今日は見に行こうと晴子が心変わりしたのを椛が知るのは、部活が始まってからだ。
「…あ、桜木くん!」
「は、晴子さん…!やや、椛さんも一緒で」
椛の後ろの方、視界に桜木をとらえた晴子が名を呼ぶ。
それに反応し、パアッと明るい表情を浮かべこちらに駆けてくる桜木をみて、椛は尾をブンブンと振る犬を思い浮かべた。
「ど…どうかしましたか?」
『ん?随分とでかい犬だなァと思って』
意味のわからない返答に困りつつも、椛にジーッと見つめられて若干頬を赤らめた桜木だった。
『(大型犬…)』
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