潔く、美しい赤
□第17話
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『あれ、皆もう帰っちゃってる』
部室に着いた椛は中を見渡しながら早いなァと呟いた。
「覗くなよ」
『…目の前で脱ぎだす人の台詞じゃないけどそれ…』
さっさと中に入り、Tシャツを脱いでいる流川。
入り口に立ったままの椛はなんとなく目のやり場に困り、避けるようにして中へと入った。
『えっと…どこだろ』
流川と共に荷物を置いた後、部室に用事がある為一緒にやってきたのだが…目的のモノが見当たらない。
しばらく棚を物色していた椛だったが、ふと上に積まれているダンボールに目をやった。
『よっと………お』
近くにあったパイプイスにのぼりダンボールを手前に引っ張る。
背伸びをして開けた中を確認すれば、目的の古いスコアブックが入っていた。
『…あった、これ?っ…!?、』
探していた時期のスコアブックを見付けたと思った瞬間、重さでダンボールが滑り落ちる。
咄嗟に支えようと手を出すが、結構な重さにたえきれずパイプイスからバランスを崩してしまった。
これは床に落ちる…!
覚悟をし、おもわず目を瞑る。
『……?』
しかし感じた痛みと衝撃は小さいもので、床に叩きつけられた感じがしない。
不思議に思った椛が目を開ければすぐ近くには流川の顔があった。
『あ…』
「何、してんだ」
ぎりぎりで受け止めていた流川。
横目で様子を見ていた為直ぐに対応できたのだ。椛を抱き床に座ったままフウと小さく息を吐いた。
『あ…ありがとう』
「どあほう」
まだ少し驚いたままの椛だったが、思い出したように声をあげると流川の制服を掴む。
『ケガとか…大丈夫!?どっか痛めたりとかしてない!?』
いつもののんびりした口調よりも若干勢いのある喋りにおされながら、流川が大丈夫と一言伝えれば、椛は安心したようでハーッと大きく息を吐いた。
『よかったー…練習試合前に、ケガさせちゃったらどうしようかと。本当にへーき?』
安堵の笑みを浮かべた椛に、なんとも言えない感情が沸き上がる。
流川は、立ち上がろうとした椛の腕を掴むとおもわずそのまま自分の方へと引き寄せた。
『うわ、…る、かゎ…?』
いきなり引っ張られ驚いた椛。
自分が流川の腕の中にいるとわかり目を軽く見開いたが、状況に頭がついていかないようでうまく言葉がでてこない。
「(…やべー…離したくねー…)」
衝動的とはいえ、流川はいたって落ち着いている。
好きだとちゃんと自覚したからなのか、沸き上がってくるこの感情を不思議と素直に受けとめられていた。
『(…何、コレ…)』
椛は今までこんな風になった事がないバクバクしている心臓に戸惑う。
どーする事もできず何かを言う事もできず、ただ黙って流川の腕の中におさまっていた。
『……』
「(…おお、)」
時間的には1、2分。
抱きしめていた腕の力を弱めると、流川は動かない椛の顔を覗きこんで僅かに目を見開いた。
顔が、真っ赤なのだ。
「…真っ赤」
『…え、…なんで…』
おもわず口にだせば、いつもあまり物事には動じない椛が恥ずかしそうに困ったようにアタフタして俯く。
「(なんか…可愛い…)」
初めて見た珍しいその姿に、流川はおもわず椛の頭を撫でた。
『な…なんで撫でんの…』
顔をあげ、流川を見た椛。
「…可愛いかったから?」
『…なんだそれ』
顔が、あつい気がするのは気のせいだろうか。
まさかこの男からそんな言葉がでてくるとは思いもしなかった椛は、フッとおもわず笑ってしまった。
感情を素直に
「あれ、まだ居たのか…ってどーしたコレ、散らかして」
『木暮先輩…や、ちょっと落としちゃいまして』
「ケガとか大丈夫か?なんか顔赤いけど」
『え?あ、大丈夫です。ビックリしただけで…』
「そうか?ならいいけど」
「(反応が面白い…アイツのあんなとこ初めて見た)」
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