潔く、美しい赤

第21話
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「(……3時?)」


しばらくして、目を覚ました流川。
枕元に置かれた時計に手を伸ばし時間を確認すると、ゴロリと向きをかえた。



「ぉ、……」


おもわず漏れる声。

すぐ目の前にベッドに頭をあずけ眠る椛の顔があり、心底驚いたのだ。



忘れてた、と1人呟く。


よくみれば椛はイヤホンをつけ何かを聴いていたようで、そのまま寝てしまったらしい。





軽くその頭をつついてみたが、起きる気配はない。



「(…だから無防備すぎだ)」



フゥと小さなため息をついたところで、流川は仙道の事を思い出した。



「(あのヤロー…)」


どーやら2人は知り合いだったらしいが、馴れ馴れしく椛が触れられていた事が正直気にくわない。

仙道に聞かれたからとはいえ、カッコよかったと素直に頷いた椛にも正直ムッとした。



ただの嫉妬心に嫌気もさすが、それでも流川は椛を好きになってしまっているのだからこればっかりはしょうがない。

このまま帰したくなくて勢いで連れてきたのだが…さて、どーしたものか。







「(……まつ毛なげー)」


スヤスヤ眠るその顔を何気なく観察。





「(…スルスル)」

長い栗色のその髪に触れてみれば猫のように柔らかく、指の間を滑り落ちていく時のスルスルとした感触がなんとも気持ちよかった。





その感触を楽しむように繰り返し触れていれば、やがて椛の目がゆっくりと開く。



『……』

「……」

『……』

「……よお」



声をかけてみれば焦点がいまいちあっていなかった椛の目が流川をとらえた。



『ん……あー…れ?…ああ、そっか…』

現状を思い出した椛はゆっくりと眠そうにまばたきをする。
ボーッとした頭でおはようとアクビまじりに呟いた。


『ぁ、コレ勝手に借りちゃった、ありがとう』


耳からイヤホンをとり礼をのべる椛の髪に再び手を伸ばした流川は、指先でそれをクルクルと遊ぶ。



『…何?』

「…スルスルしてキモチイイ」

『そうかい?』


フッと柔らかく笑った椛におもわずドキリとした。






「(コイツが部屋にいるって…変な感じ。……)」





流川は今更同じ部屋に2人きりな事に気づく。

しかも好意を持っている相手。
簡単に触れられる距離。

おもわず手の動きを止めると、起き上がりベッドの上で胡座をかき頭をガシガシとかいた。






『あ、ねえそーいえばさ』


すぐ横で、ギシリとなるスプリング。

見れば椛が何やら枕元にあるCDに手をのばしている。



『これ、貸して?』

「別にいいけど…」




現状が気になりそれどころではない。
2人して至近距離でベッドに座っているのだから。



『なんか意外、流川ってこーゆうの聴くんだ』


なかなかいい趣味してるね、と1人のんきに物色する椛。

何故か自分を見たまま喋らない流川に気づくと、はたとその動きをとめた。



『…ん?』

「……どあほう」

『なんで、っ…!?』



それはほんの一瞬…



流川の唇が椛の唇に触れ離れる。



『………』


目を見開いた椛。

何が起こったのかと、目の前の流川の顔を凝視した。




「……」

『……』



至近距離で見つめ合う2人。

固まって動かない椛に、流川はもう一度唇を寄せてみた。



『る、る…!?』


ポンポンとその頭を撫で離れる。



「…ごちそーさま」

『…ごっ…!?い、今、き、キ、ス…』



飄々とした流川の態度とは反対に、遅れて焦る椛。

二度目にようやく、自分が今流川にキスをされていたのだと理解したのだ。




『……な、ん…』

「…したくなったから」

『し、したく、って…』

「おめーが無防備にそこに座ったのがわりー」

『なっ…!?』


流川の言葉に困惑気味な表情を浮かべるその顔はどんどん赤くなっていく。



『したくなったって…そ、そん…いきなり…えっと…』


どちらかといえば、普段椛も飄々としているタイプなのだが、起き抜けの回らない頭のせいか情報を処理しきれず1人パニックになっていた。



「(…ヤベー…なんだコイツ)」


昨日よりもはるかに真っ赤になり言葉につまる椛が珍しくて面白い。
そして反則なぐらい可愛いすぎて、流川は我慢できず椛の腕を掴み引き寄せると自らの腕のなかに閉じ込めた。


『る、るか、わ…あの、』

「…ちょっと黙れ」



僅かに香る椛のニオイに負けそうになるが、抱き締めながらこれ以上暴走したくなる気持ちをグッと堪える。



『(…し、心臓が…)』


理性と闘う流川の腕の中で昨日同様にバクバクとなる心臓に戸惑う椛。

先程よりもギュッと力が込められた腕の中から、もぞもぞと顔をあげ流川を見上げた。

『る、かわ…苦しいよ…』

「(…ヤベー…)」


顔を赤らめ僅かに潤んだ瞳の椛はまさに凶器。
そんな顔で見上げられてしまえば、いくら流川といえどそこは思春期の男子だ。



流川の理性がとびそうになった時、静かな部屋にグーッと大きな低音が響きわたった。


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