跡地


◆偶に 

触れてくる手を拒めない時がある。

(こんなに嫌いなのに…)

ハードの、デカいだけの手が無遠慮に頬に触れた。

(痛っ…)

がっしりと掴んだかと思うと、次の瞬間するりと離れて指先でなぞるように触ってくる。

鬱陶しくて仕方がないはずなのに、僕のカメラアイは意に反して細められるのだ。

「……」

「何。」

「………」

「何か言ったらどうなんだい。」

せめて無言だけでも切り崩そうと問えば、言葉の代わりに手の平が。

「…ハード。」

「なんだ。」

「何だじゃないよ。気味が悪い。急にどうしたんだよ。」

「お前もな。」

「っ」

そう、分かっているんだ。
払いのけられもしない。
こんな、只の手の平なのに。







(ただの………、)

2014/07/19(Sat) 20:45 

◆ジェミニちゃん×2 


「ねぇ君、ひとりかい?ああ、そう。その様子だとはぐれちゃったみたいだねぇ。…ふふ、馬鹿なところとかもそっくりだね。おや、そんなに媚びを売って良いのかい?そうだな…それじゃあ名前でもあげようか。今、ちょうど君と同じようにはぐれた馬鹿がいてね。彼と同じで色も似ているし。だから………………」





―だから、この名前を





「ジェミニ」

「おい!てめぇ…スネークっ!オレに渡したデータまたすり替えやがっただろ!回収場所なんてどこにも書いてな、」


にゃーん。


「………なんだ、それ」

「猫だよ。」

「見りゃ分かる。」

「可愛いだろ?ジェミニっていうんだよ。」

「は?」

「ほらここ。眉間に菱形みたいな模様がある。色も白くて君みたいだろ。」

「不快だ。」

「まあまあそう言わないで。この子も迷子みたいだよ。」

「も、ってなんだ。まさかてめぇオレ様が、」

「迷子、だったんだよねぇ?地図も読めないで。可哀想に。」

「っ、だからてめぇがデータすり替えたせいだって言ってんだろうが!!」

「やーん、怖いねぇ。ねぇジェミニ。」

「やめろ気色悪い!」

2014/06/18(Wed) 23:22 

◆叩いときゃ直る 


暑い。

ただジリジリと焼けるような、痛みを表すパルスが鈍く重かった。

(……なんだ?)

と、それらに混じって連続して微かに混ざる振動。
ハードマンはカメラアイを閉じた一瞬の暗闇の中、それに気づいた。

重い。

再びの鈍痛。次いで思い出す、眼前に広がる戦闘風景。何かのシーンの様にスローモーションだったが、そこには確かに見えた。

あのオレンジが。

「っ、タップ」

途端、暗闇に閃光がはしったようだった。
たまらず、浮上する意識とエネルギーをすべて再起動に向ける。

「「あ」」

カメラアイが開いた瞬間、パシリと頬を叩くオレンジと目があった。

「あー、やっと起きたー…」

「タップ」

くしゃりと顔を歪めるタップマンに内心驚きながらも、状況がよく分からず周りを見渡す。
すると、何故か自分が無様にも倒れ込んでいるその上に彼が乗っているらしかった。

「だあー…、もー疲れたー!お前さ、やめろよな。そーいうさあ…急に動かなくなるとかさあ…」

「タップ…、!?」

呼びかけながら気づく、なんだかいつもより…彼の機体が軽い。

「お前、足」

じゃー基地着いたら起こせよなー。ボクも叩いて良いからさ。

「は」

言い募ろうにも、それきり突っ伏すタップマンの顔は見えない。
しかし微動だにしない、怪訝な自分の様子に気付いたのだろう。しぶしぶ顔を上げた。

「…博士がね、ハードは叩いたら直るって。ホントだったんだなー。」

「……」

「なんだよ。」

「ずっと叩いていたのか。」

「そうだよ。」

「……」

「だからなんなんだよその顔は!」

「いや」

「どーせボクはスネークみたいに機械に強くないしマグみたいに適当にすら直せませんよー」

ふてくされて、千切れかけの足をブンブンふってくる。
たまらず吹き出してしまったのが気に障ったらしい。

「助かった。」

「……」

いよいよ不機嫌な様子を隠そうともしない。
しょうがないと身を起こせば、口をとがらせたオレンジがボソリと答えた。

「…じゃー起こせよな。」

「叩いてか?」

「ほっぺたなら許す!」

「そうか。」

「…撫でても起きないからな。」

「どうかな。」

「……」

仏頂面をあやすように手を添える。
仕方ないなあと言いながら、存外満更でもないように。
腕の中のオレンジは目を閉じてくれたのだった。

2014/06/10(Tue) 23:18 

◆ほしかったんです 


「ダメだよね、こんなことでめげてちゃ。」

「……」

「ダメなんだよね、こんなこと、なんでも、ない…のに…っ」

「タップ、」

「でもっ、でもさあっ」

「タップ…気持ちは分かるでござるが、その」

「いや!お前には分かんないよシャドー。ボクはっ!ずっと!この時を待ってたのに!それを、それを…!」






目の前には封を開けられた小袋。

E缶に付属していたらしいそれには、様々な種類のオマケが中が見えない状態で入っていた…らしかった。



「つか封だけ開けて放置かよ!何だよせめて中身も持ってけよちくしょー!」

「いやでもレアならともかくこれはノーマルすぎて、」

「何か言った?」

「いや…」

ダアァアン!と悔しさに任せて割れんばかりの勢いでデスクを殴るタップマンを、何とも言えない表情で忍者が見やる。
常ならば逆が多いポジションもこの時ばかりは何故か受け身に回らねばならない理由でもあるようで。

「その…タップ、」

「あんだよ」

「これはまあ…例えばの話でござるが」

ギロリと恨めしげな独楽の目線を、まるで敵から間合いを取るようにシャドーマンはかわした。

そして、指を立てつつまるで内密な話でもするかのように。

「例えば、例えばでござるよ?えーと、例えば、これ見よがしに置かれていた袋が気になって仕方ない…プラス、めっちゃ腹が減ってるロボットがいたとするでござる!」

「…うん」

「んで、もう死にそうだからE缶を手に取る、そして手元を見たら…なんと!袋の封が破れ「んなわけあるか!!てかやっぱりお前かよ!」

「せめて最後まで言わせて!でござる!」

「いーや聞くまでもない。何故なら貴方は既にスピンを食らいたくて仕方がないという顔をしているからです。」

「何故に敬語!?っていうかそもそもタップがこんなとこにオマケを放置してるからいけないんでござるよ!某でなくとも気になって開けてしま…、あ。」

「やっぱりな。」

「…然らばお暇!」

「おい待てやコラ!!!」

去り際はまさに影のように華麗なもので。



今度はちゃっかりオマケそのものまで持ち逃げされていることに、タップマンが気付くはずも無かった。

2014/05/29(Thu) 21:41 

◆もはや、騒音 


「君さ…本当にオートバランサー搭載してんだろうね…」

「ん?」

「じゃなきゃ、どっかイかれてんじゃないの…」

「え?なんか言った?」

「運転が滅茶苦茶だって言ってんだよ!」

ぐらり。
またもや豪快にハンドルをきられて車体が軋む。
反動で窓に押し付けられて、スネークは顔を歪めた。

「っ、もうちょっとマシな操作できないのかよ!」

「うわっ、ヤバいハンドル取れそう!」

「はあ!?」

「ははっ、でもすんげー楽しい!」

「お前な…、っ」

二機が乗り込んでいるのは、人間用の車体。例え逃走のために強奪してきた武装車であろうと、ロボットに比べればはるかに脆いことには変わりない。
ギシギシと嫌な音を立て始めた車体に、更に追っ手の銃弾や何やらが当たって五月蠅いことこの上ない状況。それに不快なはしゃぎ声まで加われば、車内は騒音で溢れかえってしまう。

「ちょ、やべえ!マジやべえスネーク、これ音声判別まで付いてる!かっこいい!あっそれになんだこれ…うわー!マップが窓に映る!」

「ああそうかい…っ、おい!そこ右だろ!」

「えっ、ああそっか地図出してたのに見てなかった!」

「………」

ラフな運転ながら、いつの間にか機能を使いこなし始めるタップマン。
しかし、その感心すべき点も無駄なテンションが邪魔をして五月蠅いだけだ。
加えて、そろそろ四方を囲む防弾ガラスも意味を成さなくなってきた。

ますますスネークマンの顔が険しくなる。

「チッ…あと三分以内に引き離さないとこの車バラバラになるよ?」

「よーしオッケー。捕まってなよ!」

「う、わ…!」

ガシャン。
唐突に、大きな車体がタップマンの声と共に変形し出す。
余りにも突然過ぎる出来事に、スネークマンが言葉を失っていると、得意げな顔がにやりと振り向いた。

「じゃーん!ブースターモードッ!」

「………」

「これで三倍速だぜ!ざまあ見ろ!…って、スネーク?」

「さ」

「さ?」

「最初からしろよこのアホ独楽!つかこれなんだよオートドライブできんじゃねーかアホ!」

「アホアホ言うなよ!だって、」

運転したかったんだもん!と、その口が動く前に。

スピードを上げ始めた車内には、今度は拳骨の音が響いていた。







「ボクの頭の方がヘコみそうなんだけど!?」

「もうお前黙ってろ!」

2014/05/14(Wed) 23:46 

◆「触れられるかどうか、曖昧なその距離」 


「…あのね、ロック…どうしたのかな…」

「ん?」

「いや、ん?とか良いからさ…ちょっと、苦しい…」

「わわ!ごっ、ごめん!」

まとわりついていた、小さな手の感覚が消える。
軽く排気音を立てると、幼くつくられたその顔は、あからさまに動揺の色を浮かべた。

「ご、ごめんね、ぼくが急に呼んだんだもんね。」

「いやそれは別に気にしてないんだけどね。」

「っ、そうなの?」

「うん。」

小さく息をのむ音。カメラアイが綺麗に揺らぐ。





スネークマンはこの小さなロボットが嫌いではなかった。
寧ろ“観察対象”としては面白いとまで感じていたのだ。

「なんでだろうね。」

「え?」

別に理由なんて分からなくて良いのだけれど。

「ロック、今日はどうしたの?」

「………」

そう問えば、ふいと俯く顔。
からかうように声を上げると、案の定、ますますバツが悪そうに身体を強ばらせるので、思わず声を上げて笑ってしまった。

「っ、笑わないでよ!」

「だっ、だって、ふふっ、可愛いからさ、ロック。」

「もー!」

「別に取って食ったりしないよ。今はね。」

「?」

「勿体ないし、ね。」

「えっと…」

「褒めてるんだよ。」

なんて。言い訳にしか聞こえない言葉を自嘲する。









(そう、彼がまだこの感情に気付くまでは、ね。)

蛇は蜷局を巻いて待ち続ける。
じっと、その手が差し出されるまで。


「ねぇロック、今度は君に触れて良いかい?」

2014/02/14(Fri) 09:55 

◆G 


追いかけた先のラボに、きょとんとした顔のマグネットマンはいた。

「早いな、もう終わったのか?」

「お前」

「ん?」

分かっているのか、いないのか。どちらにしろ自分から言うつもりはないらしい。
ジェミニマンは内心舌打ちすると、切り出した。

「なんだよあの判定結果。」

「あー、見たのか?恥ずかしいな。」

カメラアイを瞬かせ、なんだそんなことかとまた笑みを見せる。いつものことだと言えばそうなのかも知れないが、この場合その笑顔は不自然すぎた。

「ふざけんな。つか、全弾当たってどうクリアしたんだよ。」

「んー、クリアしたっていうか、機体損傷の度合いを見たくてさ。」

「は?」

相変わらず意図が分からないと訝しむジェミニマンに、やはりいつものようにのんびりとした調子の声は答える。

「だから最後はまあ自爆シュミレートのようになってしまってたんだが。こう…磁力で弾丸も引き寄せられるかと思ってな。」




そう言って、また笑った。

2013/12/23(Mon) 15:53 

◆F 


「アイツ…何やってんだ。」

「さあ?でもこんな数値出すなんて自分から弾に当たりにでも行かないと無理だよな。」

「だろうな。」

「え」

すぐさま肯定されたことにホログラフ自身が驚いたように目を見張る。

「でもジェミニ、それって」

「バカだから大いにあるだろうよ。ったく、こうもふざけた値だしてりゃメンテ行きだっつーの。」

「あれ、ホントだ。コイツ動いてくんないな。」

よくよく見れば、"DANGER"の文字がディスプレイ上に明滅したまま、器具は沈黙したままだ。
これでは模擬戦どころではない。

「どっかのアホがぶっ続けで占領できねえようにアラート付けたんだよ。…ったく、めんどくせえ。」

「えー、じゃあ模擬戦できないのか?」

「あのボケ磁石呼んでくる。お前は戻ってろ。」

「えっ、せっかくオレ動けるようになったのに、!?」

抗議の声を上げるホログラフに合図をして消し去ると、ジェミニマンはシュミレーションルームを後にした。












「おい」

「あれ?」

ジェミニ、と動いた口のまま、小首を傾げて固まる赤い機体。
本気で分かってないようだ、とよく分からない安心感まで覚えるが、気づかないふりをして変わりに思い切り顔をしかめて見せた。

―本当にコイツは、

「おいボケ磁石」

「なんだ?」

ああ、イライラする。
そんな笑顔を見せるな。

2013/12/19(Thu) 23:56 

◆E 


「なあなあジェミニ、マグの奴、何してたんだ?」

「ああ"?」

興が削がれた、とシュミレーションデータを物色し始めるジェミニマンの傍らに、ぼやりと同じ形の影が浮かぶ。
そのままふわりと音も立てず着地するかと思いきや、キラキラと残像を持ちながら、それは急に実体を持つような重量感に変わった。

「なあ!オレもやりたい!模擬戦やりたい!」

「うるせえ。」

無視してデータを弄くり始めるジェミニマンに、形を成したもう一体のロボットは楽しそうに抱き付く。

「うわ、久しぶりだなこの部屋。ジェミニ最近引きこもってたもんなー。」

「誰のせいだと思ってんだ誰の。つか、何で何回調整してもオレより先に攻撃しかけんだよ。」

「えー、そんなつもりないんだけどなー。あ、ジェミニこれこれ!」

「てめ、ヒトの話を聞けっ…………て、何だよソレ。」

きゃいきゃいと纏わりつく機体を引っ剥がしながら、ふと目に留まったデスクの上のファイル。
そこに書かれていた数値に思わず目が釘付けになる。

「なんだ、これ…」

「どうしたんだ?ああこれマグネの数値データか。ん?でも変だな、これ被弾率100%ってことじゃないか?」

覗き込みながらグラフを指差し、不思議そうに呟くホログラフ。そこに示された数値は、意味不明なもので。

(全被弾、だが迎撃の精度は格段に上がっている…)

ジェミニマンは傍らの機体を押しのけ、顔をしかめた。
赤い機体が出ていった扉を今更ながら恨めしそうに睨む。

2013/12/16(Mon) 15:43 

◆D 


「あ、ジェミニ」

「お前、なんで」

きょとんとした表情で振り返ったのはマグネットマンだった。
慣れた手つきで器具を片づけ終わると、立ち尽くすジェミニマンの肩を去り際に軽く叩く。

「ジェミニもシュミレートか?休みなのに精が出るな。」

そう言って水滴を拭う。何の模擬かは分からないが、水上戦でも想定していたのか。

「あー、思ったよりぐしょ濡れだな。これは…」

拭いきれない水滴が滴り、無機質な床に跡を残していた。

「てめえ…今日は確か、」

「ああ、博士の気まぐれでな。今日同行する予定だった施設、やっぱり明後日潰すことになったんだ。」

―だから、俺はいらないらしい。

にこ、といつもの笑みを浮かべながらサラリと言ってのける。そんな内容では無い気がするのだが。

「……」

しかし、それについて言い募る気もさらさら無く。置かれた手を払いのけ、ジェミニマンは無言でドアを閉めた。

2013/11/18(Mon) 23:43 

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