treasure

□今宵だけ、君の
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10歳子雲雀とハタチ綱吉、お隣さんパラレルです。ご注意。
キャラ崩壊はお約束ッ☆(orz







二階の窓から他人の家にお邪魔する、という無茶な芸当を、若干二十歳を越えた今日にして初めてこなした。誰か誉めてほしい。
(泥棒ではない、そう、決して、断じて!!)
何処かのだれかの様に(というか今まさに俺がお邪魔しようとしている家の住人なのだが)俊足2秒内で窓から転がり込んでダイヴ!(運が悪くベッドで寝てたりすると腹ど真ん中に襲撃される)という猿真似じみた技術は生憎持ち合わせていないので、何度も屋根からずり落ちそうになって悲鳴を押し殺しながらも懸命に登って来たというわけだ。


…聖夜、ホワイトクリスマスの深夜2時に、だ!!



霜がきらきらと光った塀は掴んだだけで凍り付く様な激痛を伴ったし、うっすらと雪の積もった屋根を若干這いつくばりながら進むといった奇行はもはや地獄だった。


それでも。今、自分は決して投げ出してはならない重大任務を背負っているのだ。


それは、生まれた瞬間、刹那にして世界の正体を暴いたかの様に昔から変わらず(少し、いやかなりの)暴虐不尽、超の付くひねくれ小僧に夢を与えてやる事。
雲雀恭弥。彼の子供とはあちらが産まれた頃からの付き合いだった。親同士が仲が良いのが原因だったのか、10年という途方もない歳月を幾度となく共に過ごした仲だ。所謂幼なじみ?…にしては歳が離れすぎているか。まぁ、平たく言えば家族みたいな存在だ。



奴には、夢がない。
というか、全然子供らしくない。



昔からそうだった。(あまり関係無いが)大嫌いなブロッコリーは食卓に出る度ライターで燃やそうとするし、近所の悪ガキに目を付けられたと聞いた時には心底気が気で無かったというのに、いつの間にかガキ大将の座に君臨していたし(本人は嫌がっていた。流れでそうなってしまったらしい)、1年生の時に書いていた「将来の夢」作文には「なみもりのちつぢょをまもる」とかよう分からん事を書いていたし(果たして奴は秩序の意味を理解しているのか)。



そして、去年のクリスマス。…あれは、地獄以外の何物でも無かった!!彼女がいる筈も無い独り者の俺をこれ良しとばかりに捕まえて、一晩中サンタクロースの存在性の矛盾について(始終、今夜は寝かせねぇ☆とでも言いたげな爽やかな笑顔で)布団の中で質問の嵐を浴びせた子供。


…何か、あれ夢をもつお年頃の子供の質問じゃあ無かった。リアル過ぎた。夢の欠片も無かった。(最後は定年退職すべきサンタに過酷労働を促す世界中の親子への冒涜で締め括られた)
そうして去年、明け方まで俺を付き合わせてまで起きていた彼は見事にその身でもってサンタなぞいないという事を証明したのだ。(つまりクリスマスの夜、サンタはやって来なかった!)
「やっぱりサンタサンタなんて騒ぐガキは愚かだよ」と胸を張った恭弥(お前もガキだ)に、「寂しい思考だな。そんな思考回路サンタもそりゃあ引きまくって来ないわなぁ。今年明らかお前いい子にしてなかったしな」と言いたい気持ちをどうにか抑え、俺は心の中で寂しく独り涙を溢した。
切なく過ぎ去った、忘れられる筈もない去年のクリスマス。



今年は、自分が恭弥に夢を与えてやるのだ。
(と、ここで綱吉が決意に至るまでに親の方が諦めただとか泣きつかれただとかそっと袖の下を渡されて全力で押し返しただとか色々大人の事情ってものもあったのだが)







カラカラカラ。そっと、出来るだけ音を立てない様に、慎重に窓を開ける。どうやら言い付け通りちゃんと鍵を外しておいてくれたらしい。安堵の息を溢しながら、そろりそろりと部屋の床に静かに足を下ろす。

寝台の上に小さく膨らんだ布団が、規則正しく上下している。今年は子供がきちんと眠りについていた事を神に感謝しながら、背中に背負っていたリュックをそっと床に下ろし、大きなプレゼントの箱を取り出した。リボンがへたれていないか若干不安ではあったが、いらぬ心配だった様だ。知れず笑みが溢れる。
喜んでくれるだろうか。
朝一番に、横脇のプレゼントに気付いた子供はどんな表情をしてくれるのだろう。想像しただけでも自然と頬が緩む。ここまで辿り着くまでの数々の苦労の代償は、それでもう充分だった。


枕元にプレゼントを置くと、さて自分の仕事はもう終わった、と綱吉は踵を返して窓へと向かおうとした。





つまり子供に背中を向けた。
これがいけなかった。


光速で布団の脇から伸ばされた手に服の裾を掴まれ、よろめいたと思ったら今度は首の襟をぐいと引っ張られた。突然の事に身体は完全に反応が遅れて、息苦しさにぐぇ、と何ともつかぬ声を綱吉は発した。
背中から、先程まで子供が寝ていたベッドに倒れ込む。目を白黒させて全く状況が飲み込めない綱吉の視界に、子供がいた。
勝ち誇った様な顔。嗚呼昔から本当に、負けず嫌いなところは変わらない。本気で綱吉は泣きたくなった。
もう少し考えるべきだった。この子供が、自分の企てにほいほいと嵌まるわけが無かったのだ。いつも彼の悪巧みにまんまと嵌められるのは、自分の方なのだから。



「挨拶もしないなんて、随分失礼なサンタもいたもんだね」

「きょ、恭弥……っほら、プレゼントがあるぞ!お前の欲しがってたトンファ」

「プレゼントなんかに興味無いよ」


必死の訴えをいっそ心地好い程にさらりと一蹴し、綱吉に覆い被さったままにたり、と意地の悪い笑みを子供は浮かべた。


「でも、こうしてわざわざ綱吉が会いに来てくれるんならクリスマスもいいかもね」


絶望と共に、綱吉の視界が暗くなっていく。感情の現れだ、と心の奥底で嘆いていると、唇に何か温かいものが触れた。見ると、さらり、と子供の美しい漆黒の髪が綱吉の頬を撫でている。近い、顔が。視界が暗くなったのはこれのせいだったのか。


いや、むしろ今自分は何をされた?


「ねぇ、プレゼントは綱吉が欲しい」

耳元で囁かれた言葉。先程の事態を理解すると共に色気もへったくれも無く全力で綱吉は絶叫した。

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