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□悪戯心に乾杯
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「せんせー」
「…あー?」
この前の現国のテストの補習であたしは放課後の教室に先生と居残っていた。
「疲れた」
「まだお前一文字も書いてねェだろ」
あたしが椅子にもたれて、うーん、と伸びをして言うと先生はあたしの頭をペシッと叩く。
あたしは先生の声を聞き流しながらプリントを眺めていた。
(…何にも頭に入って来ない)
「…ちゃんとやってろよ。俺ジャンプ取って来るから」
「あ、じゃあ先週のヤツまだ読んでないから持って来てよ」
「ばーか。補習のヤツに誰が取って来るか」
そんな会話をしながら先生は教室を出て行った。
あたしは眠気が段々襲って来てしまって。
(ヤバい、眠い…)
あたしは眠たさに勝てずに寝てしまった。
ハッと目を覚ますと教室は結構暗くてびっくりした。そして下校時刻を過ぎているのにもびっくりした。
だけど、あたしの目の前の机でジャンプを枕にして寝ている天パに一番びっくりした。
「せん、せ?」
声をかけてみるものの起きる気配はない。仕方なく教室の電気をつけてまた先生に向かい合って座った。
(…普通、先生だったら生徒が寝てたら起こすもんじゃないの?)
「…せんせ、」
もう一度呼び掛けてみても先生は寝たまま。あたしは、ふう、と溜め息を吐くと先生の寝顔を見つめたて、先生の髪の毛をくしゃっと触った。
「…髪の毛ふわふわ」
あたしは持っていたメモ帳を一枚破って、先生の枕代わりにしてるジャンプの横に置いた。
「先生、怖がりなんだから早く起きて帰らなきゃ駄目だよ、」
あたしはそう言うと席を立って下駄箱に向かった。
あたしは教室を出て下駄箱に向かって歩いた。もう暗い校舎は怖くて。こんな事なら先生を叩き起こしてでも着いて来てもらえば良かった、とあたしは思った。
「やだやだマジ怖い…!」
下駄箱の自分のローファーに手をかけたその時、あたしの手は後ろにグイッと引かれた。
「っえ…!」
後ろを振り向くと、さっきまで寝てたはずの人が息を切らして立っていた。
「せん、せ…?」
「…送ってやるから」
先生は真剣な顔でそう呟くとあたしの手を引いた。職員用の出口に行くみたいだった。
(………)
結局、勇気を出して書いたメモは相手にされなかったみたいで。
あたしははァ、と一つ溜め息を落とした。
そのまま駐車場まで引っ張られ、原チャに乗るよう指示された。先生の原チャに乗って学校を出た。先生の腰に回した手が震える。緊張して声も出ない。
原チャは無言のまま走り続けた。
「え、先生…あたしの家、
「知ってるから」
途中で先生の原チャの方向が変わってあたしは思わず先生に声をかけた。けど先生はあたしの声を遮って言うと、公園に入って行った。
公園で原チャを降りるといきなり抱き締められた。先生の白衣からは甘い匂いがした。
「せん、…っ!
「何、あのメモ」
「な、何って…」
「…悪戯? ……本気?」
先生があたしを抱き締めながら言った。
「…ほ、本気って言ったら?」
あたしはドキドキしながらそう呟いた。その瞬間あたしの唇は先生に塞がれていた。深く深く落とされるキスにあたしは頭がクラクラする。
「…キスする」
最初はぼんやりしてて何の事か分からなかったけど、段々頭がはっきりとするとあたしの質問に対する答えだとようやく分かった。
「も、もうキスしたじゃん」
「…じゃァ、『キスした』」
「…ほ、本当はね」
あたしは家までの道、先生の背中に抱き付きながら呟いた。
「あァ?」
「最初はあんなメモ書くつもりじゃなかった。フられそうなら悪戯だって言おうとしたの」
「………」
「けど先生が真剣に言って来たから…」
思わず答えちゃった、と言うと丁度信号で止まった原チャ。その隙に先生はまた後ろを向いてキスをして来た。
「……っ!」
「…俺だって冷静なフリすんの大変だったんだぜ?」
先生はニヤリと笑うとそう言った。
「…フリ?」
「そうだって。見つかるとヤバいなって思ったからわざわざ公園まで連れて来てさァ」
再び走り出した原チャ。先生の腰に掴まってあたしはぼそりと呟いた。
「…先生、好き」
「…俺だって」
【先生、好きだよ
…じゃあ先帰ります!】
悪戯心に乾杯
(…来週どっか行くか?)
(先生の家見たい!)
(…え゙?)
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企画【せんせいとわたし】様に提出。
君色シンドローム/水瀬 葵