TEXTU-たたかえ!白血学園-

□割れないシャボン玉
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見上げていたシャボン玉が、屋根の向こうに消えた。


一緒に見ていたエンキが、隣で泣き出す声。


どうやら、上ばかり見ていたせいで転んだらしい。


とりあえず手を差し出し、起き上がらせる。

「上ばっか見てるからだ、この馬鹿!」

「う〜…シャボン玉どうなったー?」


屋根の向こうに消えた。

きっともう割れてしまった。


「ずっと向こうまで飛んでったよ。もうお前の目じゃ見えねえくらいにな。」


さっきまで泣いてた顔がパァァという効果音が聞こえそうなほど明るくなる。


ガキの頃の俺は嘘つきで、このアホ面のためにいろんな嘘をついた。


その度バカみたいに信じてたこいつは、10年たってどのくらいの真実を知ったんだろう。


「あー、割れちゃった。」


寮のベランダからたくさんのシャボン玉が空へのぼる。

のぼっては、割れ、ふいては、のぼる。


シャボン玉を見て笑う顔は、相変わらずのアホ面。


「ねぇ、サンー。」

「あ?」

「昔おれたちがふいたシャボン玉はどこまで行ったんだろうね。」


ベランダにしゃがんで、空を見上げて、シャボン玉をふく。


変わらない。

変わらないモノと、消えていくモノと、ここに今あるモノ。

新しく空へのぼるシャボン玉はどこまで行けるだろうか。


「さあな。」


昔の俺は嘘つきで、お前のために嘘をついた。


「サーン、好きだよ。」

昔からコイツは馬鹿正直で、変わらない。

だから、俺の中にある想いもずっと変わらない。

「お前みたいな馬鹿に好かれてもな。」


エンキの手からシャボン玉セットを奪う。


そっと息を吹き掛ければ、無数のシャボン玉が空にのぼる。


「相変わらず、サンは嘘つきだな〜。」

「なんか言ったか?」

聞こえないふりも嘘のうちか?

言葉にしなくても伝わる想い。
消えないモノ。変わらないモノ。

今も変わらず嘘つきな俺は、誰のためだ?

END

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