短編

□期待
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『期待』




お決まりの時計から地下室へそっと足を運ぶと、暗闇の中でディスプレイのみが光っており、その前にある椅子にもたれかかるように一人の男が眠っている。

アルフレッドもきっとこの状況を把握して、自分に様子を見てきてくれと頼んだのだろう。
相変わらず気が利きすぎて尊敬する。

蝙蝠をモチーフにした衣装に身を包んだまま少しだけ首を横に傾けて眠っている。
この人物。ブルースウエインの眠っている姿をほとんど目にしない。
いつ寝ているのかと過去に尋ねたことがあったが、ただ苦笑を返されただけだった。

起こすのがもったいないぐらい、珍しいその顔が見たくて、慎重な足取りになる。
どうやら熟睡しているようで、起きない様子。
まじまじと顔を覗くと整った顔の眉間に歪みが出来ている。

「(どんな夢見てるんだろ…)」

夢にまで悩まされてるのかこの男は、と考えると少し笑えてくる。

顔が見下ろせるようにデスクの上に座って、寝顔を眺めながら微笑む。

「(ねぇ、ブルース、その夢に僕は出てきてるの?)」

その悩まされてる原因が自分だったらなおさら笑えてくる。

「(でも…)」

夢の中で自分のことを考えてくれていると思うだけで、嬉しい。

「(もっと夢の中で僕に悩まされて、僕のことだけ考えてくれればいいのに…)」

そっと、その整った顔に、暖かい肌に触れたくて手を伸ばす。

触れるか触れないかのところで一度手を引くが、やはり触りたくて仕方がなくて

「…」

割れ物を扱うような手つきになる。
触れた頬の温かさや感触、もっと触りたくて撫でると

「ん」

眠り姫の御目覚め。

目を開けた時に驚くかな?と顔を近づけて目のめりにのしかかってやる。

「おはよ、そんなことじゃ敵に襲われちゃうよ?」

目を覚ましたブルースは至近距離にも特に反応を見せず、そのままの体制でぼんやりと僕を見つめてくる。
相当眠かったのか、相手が自分だと分かってから、いつもよりトロンとした瞳で見つめてくるその表情にトクンと心臓がはねた。

「襲われる前に始末するさ」

「じゃあ僕にならいいのかい?」

「好きにすればいい」
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