04/19の日記

23:04
青空
---------------
「ヒチョル兄さん、なんだか疲れてるね」



仕事が終わって楽屋に戻って、少し目をつぶってたら
シウォンにそう言われた。


香港とか中国とか
最近だって何回も行き来してるお前に言われても「そうなんだ」とは答えられないだろ。


若いくせに変に心配性なシウォンには、
こういうときはスルーするのが一番だ。



何日かたって

仕事が早く終わって、半日スケジュールが空いたとき

いきなりシウォンに連れ出された。




「兄さん、旅行にでも行かない?」

何の説明もなく
地下鉄の駅まで来て、いきなりそれだ。
まあ、シウォンらしいといえばシウォンらしいが。


「旅行?なんの準備もしてないのにできるわけないだろ!」

「ちょっと気分転換しようよ。とりあえず僕にまかせてくれたら何とかするよ」


思いっきり『納得したわけじゃないぞ』って顔しながら、仕方なく頷いたら
平日の駅の人混みの中で頭一つ飛び出した大きいシウォン少年が、嬉しそうに笑った。




地下鉄の切符を買うのも久しぶりで。

最初は電車で旅行なんて面倒くさいと思ったのに

…なんだかちょっと楽しくなってきた自分が悔しい。





着いたのは
すごい豪華なホテルで


部屋に入るなり
「わー!兄さんシャワールームがすごいよ!金色だ」とか
「夜景が綺麗だよ兄さん。見てみなよ」とか
「地下にプールがあるんだって!行ってみようよ」とか


ベッドに寝転がったまま、じっとしている僕の周りをシウォンが猫みたいに動き回る。


この僕が口を挟む暇がないくらいしゃべるシウォンの姿を
『王子様みたい』と彼を愛するたくさんの女の子たちはどれくらい知ってるんだろう。



…ちょっとだけ
優越感を感じたりする。


「プールっていったって、水着持ってきてないぞ。お前が兄さんに何にも準備させてくれなかったからな」


そんなの簡単だよ、って言って
シウォンは僕を引きずるようにしてエレベーターに乗り込んで地下まで降りる。


最初から計画してあったみたいに受付で水着を買うと、
今度は水難救助隊みたいにいきなりプールに飛び込んだ。


水しぶきが顔にかかって、嫌な気分になったけど

シウォンにつられてプールに入ったら、
久しぶりの感覚がものすごく気持ちがよくて。


シウォンがプールサイドにあがって
こっちを見てたのも全然気がつかないくらい夢中になって泳いでた。


「ヒチョル兄さん、少し痩せた?」




背中にシウォンの視線を感じて、冷たかった体が少し熱くなる。


「あんまりこっちを見るなよ。…神様がヤキモチ妬くぞ」

「好きな人の心配してるだけなのに?」


…さらっとこういう台詞を言う、シウォンの頭の中身を一度でいいから覗いてみたい。






なんとなく
そういう会話をしてからお互いぎこちなくなって

とりあえず部屋に戻る。

予想通りガウンに着替えて、
乾かしたばかりのフワフワの髪に眼鏡をかけたシウォンは、
高校生が大人の真似をしてるみたいでかなり可笑しい。





「あ、やっと兄さんが笑った」



ホッとしたように笑うシウォンを見て

『愛おしい』って言葉の意味が少し分かったような気がした。



いきなりの旅行の意味も
シウォンの気持ちも分かってるから。



言葉にして言うのはシウォンにまかせて

僕は

僕からのキスで気持ちを伝えることにしよう。



紳士気取りでコーヒーを飲んでるシウォンに奇襲攻撃をしかけたら、
どんなリアクションをするか楽しみだ。





そうしたら明日はまた
シウォンの好きなあの青空みたいに
元気なキム・ヒチョルに戻れるだろうから。




前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ