08/05の日記

21:28
東京
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兄さんは
写真に撮られるのがあまり好きじゃない。


とくに集合写真が苦手だと、昔はっきり言ってたね。

東京でみんなで撮った写真にも、兄さんは映ろうとしなかった。




カメラの枠の外で、腕を組んで一人で立ってた。










コンコン

ヒチョル兄さんの部屋のドアを二回ノックする。

反応はないけど、小さい穴からこっちをじっと見てる気配がした。


「…なんだ」
ほんの少ししか開けてないドアの隙間から、兄さんが不機嫌そうに言った。

「シャワー浴びてきたから、汗くさくないよ」

「ホテルに戻ってきてから、もう一回浴びたんだろうな」

「ちゃんと部屋で浴びたよ、ほら」




ボディシャンプーの匂いがまだ残ってる体を
開いた隙間に近付けたら、しばらくして人が入れるぐらいドアが開いた。




「電気つけないの?」


部屋の中は真っ暗で、

日本語で話すテレビの画面だけが明るくて眩しかった。


「外が明るいから」

それで十分だろ、って顔した兄さんは

カーテンを全部開けた窓に鼻がくっつくぐらい近づいて、
じっと外を眺めてた。


「何が見えるの?」

兄さんの肩に手をまわして抱き寄せようとしたら、
体をひねって払われた。


ヒチョル兄さんがいつも使ってる、シャンプーの香りがする。



「イェソンが戻ってくる」

飲み物を買いに行っただけだから、そう小さい声で呟く。


「さっき僕とシンドン兄さんの部屋に来たから知ってる。今二人で飲んで盛り上がってるよ」


そう返事して、もう一回抱き寄せたら

今度は僕の腕の中に
スルリと入ってきた。




『兄さんは
猫みたいな人だね』

前にそう言ったら、
珍しく嬉しそうに笑ってたっけ。





「兄さん、何を見てたの」

22階の窓から見える景色は、僕たちの故郷とよく似てるような気がした。


「…」

返事がないから兄さんの方を向くと

ヒボムによく似た大きな目が
じっと僕を見上げてた。



もう何回も見つめあっているのに、
今でもまだ目が合うとドキッとする。


「なに?どうしたの?」

「前髪」

兄さんの長い指が、ゆっくり僕の前髪に触れて
そのままいきなりピンッと引っ張った。

「痛いよ」

「やっぱり下ろした方がいい。いつも言ってるだろ。
お前はおでこを出すと年寄りっぽく見えるんだ。なんで言うことを聞かないんだ?」


兄さんはいつも

一番訊かれたくないことを真っ直ぐ訊いてくる。


「…前髪を上げた方が、大人っぽく見えると思ったんだ」


「大人というより年寄りだぞ!チェ・シウォンじいさんだ」

そう叫ぶと
僕の前髪をぐしゃぐしゃに掻き回して、
兄さんは笑いながら前髪を全部指で下ろしていく。


「ほら、かわいいかわいい!」

僕の頬っぺたを
両手で擦るようにしてからかうから、

両手を掴んでキスしようとしたら

のけぞるように
うまくキスをよけて

兄さんが楽しそうに笑った。




『年寄りでもいいんだ。

兄さんより大人になりたい。
人一倍寂しがり屋のくせに
わざと一人だけ離れてそっぽを向く素直じゃない兄さんを
守ってあげられる大人になりたいんだ』


そう言ったら、
兄さんは何て言うかな。









「あ!兄さんあそこ!見て見て!」

「ん?どこだ」

指差した東京の夜景を慌てて見る
ヒチョル兄さんの頬っぺたにすかさずキスをした。



「…」

頬っぺたに手をあてて
僕を思いっきり睨むけどさ。


「兄さん、この作戦にひっかかるの何回目だっけ?」

「ウルサイ!」


日本語で『しょうぶだ!』って叫んでる兄さんを抱きとめて
ベットに倒れこむ。



勝負…?

望むところですよ、
兄さん!

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