03/13の日記

18:48
幸福
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「…兄さん」

「なんだ?」

「どこから入ってくるんですか」

「ん?」

シウォンが寝ていたベットに、足元からもぐりこんできたヒチョルが

シウォンの体に乗っかったまま、毛布から顔を出して
いたずらっ子みたいに笑った。



上海から戻ってきて、他のメンバーは仕事で海外へ向かって

二人だけ韓国に残った、夜。


シウォンが借りているマンションのベットルームには、ヒボムとベンシン用の小さなソファーがあって。

今夜は珍しく
二匹が重なりあうようにして眠っていた。




「もう寝るのか?まだ早いだろ」

そう言って、シウォンが小説を読もうとかけていたメガネを取り上げる。


ヒチョルの長い髪が
さらさらと動いてシウォンの鼻先で揺れた。


「…あれ、兄さんの髪の香りがいつもと違う」

「お前の家でシャワー浴びたんだから、当たり前だろ」

おかしそうに笑うヒチョルを、両手で抱きしめると

同じシャンプーの香りが
ベットの上の二人を包んだ。


シウォンがそのままヒチョルのおでこに軽くキスをすると


どこから取り出したのか、コンサートでもらったお気に入りの猫の人形を
シウォンの肩の上で歩かせて遊びだした。


最近こんなふうに自分によく見せる
子どもみたいな仕草に

いとおしい気持ちと

ヒチョルの感じてるはずの『淋しさ』を思って切ない気持ちになる。


だからそんなときは
何も聞かずに抱きしめる。


普段は素直に甘えてくれない

年上の人を。





「なあ、シウォン」

「なんですか?」

「今日は枕を取り替えて寝るぞ」

「え?」

猫の人形を大事そうにベットサイドのテーブルに立たせてから、

いきなりシウォンの枕を引っ張り出す。


「お前はこっちを使え」

シウォンのグレーの枕を自分の頭の下に敷くと

代わりに大きな花柄の枕を押しつける。


「…」

こういうときは理由を訊いても仕方がないのは分かっているので

すぐ隣で
満足そうに枕に頭を沈めて笑うヒチョルの頬っぺたに

音をたててキスをした。




「…わざとだな」

嬉しそうに笑ってくれるはずの恋人は

なぜかシウォンに向かってそう言って
眉間に皺を寄せてみせる。

「何が?」

「さっきから、わざと違うところにしてるんだろ」


そう言って
シウォンの唇をつまんでくるヒチョル。


口が塞がれたままで
「なんのことか分からないなぁ」と言ったら


子どものころに見たアニメのキャラクターみたいな声になっていて

ヒチョルが
声をあげて笑った。






こんなとき

ふと頭に浮かぶ言葉がある。



『幸福』とは

自分が笑顔になれることじゃなく

愛する人の笑顔を見ることなのだと。





仰け反るようにして笑って
つまんでいた手を離してくれた愛しい人に

ゆっくりキスをする。



顔を近づけたときに目をつぶる表情が

可愛くて好きだなんて

言ったら怒るだろうから
黙っておこうと


そう思いながら。






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