□快適な檻の中
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以来、私はこの部屋から出して貰えない。
勿論、大人しくなんかしていなかった。
常に、脱出の機会を窺っている。

しかし、筆記用具や金物の類は部屋にはない。
よって錬金術による脱出は不可能。
指でもかじって書き付ける物を用意する手もあるが、痛いので最終手段だ。

だったら、扉を蹴り破ってやろうと思い、すぐさま実行した。
しかし、ノブを壊す事は出来ても鍵はそう簡単に開くものではない。
錠の部分が壊せなければ意味がないのだ。
私は衝撃で痺れる足を床に下ろした。


「鈍ってるなぁ。」


結局、それは私の脚力では無理だった。
おかげで、否が応にも今の体力を実感させられてしまった結果になる。
昔は扉を蹴り破るなんて楽勝だったのに。
けど、仕方のないことか。
現役を退いてもう何年も経っているのだ。
でもやっぱり悔しい。
悔しいのでガツンともう一蹴り。


「食べていい?」


突然、その扉の向こうから舌っ足らずな声が投げかけられた。
それは大人にも、子供のようにも聞こえた。


「食べていい?」


再び訊ねられ、何を?と返す前に年齢不詳な声は続ける。


「女の子のにおいがする。」


それを聞いて私は呑気に少し嬉しくなった。

まだ私を女の子の域に入れてくれるのね。
でも、その前にこの戸の向こうのヤツはなんと言った?
食べていい?と言ったのではなかったか。
でもって女の子?


「まさか…ねぇ?」


この部屋の中、女の子に該当しそうなのはどう考えても…私だけ…だ。
嫌な想像が脳裏に浮かんでしまった。


ドンドン―――


安そうに見えてなかなかに堅牢な扉が、熊に殴られたような大きな音を立て叩かれる。
そして三度問われた。


「食べていい?」
「食べちゃイカン!!」
「食べちゃ駄目よ。」


私の悲鳴とほぼ同時に、艶のある、おそらくは妙齢な女の声が食人鬼を制する。


「でも〜。」
「あれは駄目。…お嬢さんも大人しくしていることね。」


今度のノックは軽く、小鳥がつつくようだった。


「でないと、この扉を開けてこの子のしたいようにさせるわ。」


正直、脱出のチャンスだと思った。
だが、意に反して体は回れ右をして部屋の奥に向かったのだ。
何故なら、直感がそれは危険だと進言してきたからだった。

後日、この食人鬼の本気を目の当たりにして、大人しくして良かったと本気で思いました…。




 
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