□快適な檻の中
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監禁されて幾日程経っただろうか。

あの死人が蘇るなどという常識外れな体験をした後はこうだった。


気を失い、死を覚悟した。
だが、次に目覚めた場所はようやくいけると思った所ではなかった。
そこは美しい花畑でも、荒れ果てた烈火の地獄でもない。
薄暗かったが、目に入ってきたのは何処にでもある天井。

一度瞼を落とし、ヒトの気配はないのを確認をしてからゆっくりと指先と足先を動かす。
手足はキチンと付いているし、拘束もされてはいなかった。

ダルい体を起こしたのは簡素な寝台の上。
私に掛けられていた上掛けがひらりと床に落ちた。


「あたた…。」


締め上げられた首が痛む。
あれだけ力を込められたのに折れていないのが不思議なくらいだ。
でも、痣くらいついているかもしれない。
私は首筋をさすりながら、辺りを見回した。

ひとりで暮らすには広すぎる室内。
在るのは壁に沿った寝台に軍服の上着の掛けられたテーブル、後は隅に設置された便器や手洗いくらいだ。
そして、この部屋に窓が無い。
出入り口は少し離れた場所にある扉だけ。


「ああ、最悪だ…。」


思わず頭を抱えた。
次に動かすとあちこちが痛む体を確認してみる。
やはり痛みはするが、怪我らしい怪我はない。
しかし、服装は意識を失う前と同じ軍服だが、色々と無くなっていた。
武器に筆記用具が隠しから抜き取られている。
銀時計すらもない。
裸じゃないだけマシか、とプラスに考えても溜息しか出てこない。

どうやら、敵は私を逃がすつもりはないようだ。
しかし、何故だろうか?


「どうして私は生きてるんだろ?」


あの軍人は、秘密を嗅ぎ回る私が目障りだから消しに来たハズ。
なら、秘密を知っても尚生かしておく価値が私にあるのか。


「!」


突然、扉が耳障りの悪い音を立てて開いた。


「お、やっとお目覚め?」


現れたのは知らない少年だった。
長い黒髪に同色のバンダナを巻いて、肌の露出の多い軽装だ。
ふと、どこかでこんな特徴の人間について話をしたのを思い出した。
記憶のツタに一緒に付いてくるのは病室の映像。
もしや、彼はアルフォンスやロスが言っていた人物だろうか。


「…誰だ。」
「ああ。分かんないよね…ホラ。」


言うと同時に、彼の体に赤い閃光が走った。
一瞬にして、首から上の表皮が組変わるように少年の顔が変わる。
それだけでも驚きなのに、変わったその顔はなんとあの蘇った死人だった。


「…っ!?」
「これならお前でも分かるだろ?なぁ、わんころ。」


そう言うとまたしても光を放ち、軍人から少年に姿が戻った。
言葉を無くす私に対し、少年は愉快げな笑みを浮かべている。


「なんなんだ、お前は?」
「なんだと思う?」


化け物だ。
ソレしかない。


「……で、此処は何処なのかしら?」


単純明快な答えが出ているじゃないか。
なら、これ以上訊く必要ない。
それに相手も答えるつもりが無さそうだ。
落ち着くように自らに促し、私は話題を変えた。


「もう此処から出られない奴が知ってどうするんだい。」


変えてもあまり意味はなかったらしい。


「へぇ。家に帰してくれないんだ〜?」


私がふざけた口調でそう言えば、


「本当なら合成獣の餌にでもしちゃいたいンだけどね。アンタは大事な人材だから生かしといてあげるのさ。」


感謝しな、少年は肩眉を上げ面倒くさげにそう言った。





 
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