□分水嶺
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私の仕事は敵の掃討だった。
この焔を使い、全てを焼き払うのだ。
敵も武器も建物も全てだ。

そして、彼女の仕事の内容は合成獣を使っての追撃。
敵勢力の攪乱。
最近に至っては、容姿を利用して敵地に潜入までし始めたと噂で聞いた。
そうして誤った情報を流したり、国軍の作戦区域におびき寄せたりしているらしい。
これはもう国家錬金術師の仕事とは呼べるものではない。
そんな事は工作兵の仕事だ。
だが、彼女は着実にその仕事をこなしていっているようだった。



「あっちにイヌがいたぜ。」
「マジかよ。怖ぇ。」
「へぇ。俺見た事ねぇや。」
「そうなのか?あの見た目だ。一発で分かるぜ?」
「にしても、あれも見れば可愛い顔してんだがなぁ。勿体ねぇ。」
「おいおい。お前、あんなおっかない女が好みか?」


ベースキャンプで束の間の休息をとっていると、私の背後の男達がそう囁いた。
下世話な話になりそうな雲行きだ。
私は急いで腰を上げた。
友がそういった話題のタネにされるのは気分が良いものではない。


「やめとけやめとけ。噛み千切られるのがオチだ。」


案の定、幾分か距離が離れた所で、彼らはそう言って下劣な笑い声を上げた。



やってきたのはベースキャンプの外れ。
白い外套が丸くなってぽつりと座っていた。
顔を見なくとも分かる。
彼女だ。
珍しく一人きりらしい。

先程の見知らぬ兵士が呼んでいたイヌという言葉。
それは彼女、アーデルハイドを指した呼び名だった。
彼女の二つ名『豺狼』と、犬の姿をした合成獣を連れ歩いているところ。
それと、上官に対しての忠誠ぶりを揶揄しているらしい。
私にも様々な呼び名が付いているのだろうが、アーデルハイドの呼び名は彼女を蔑視しているようで気に食わない。
その上、彼女が敬愛する上官が先日の私の口論相手だとは信じがたい話である。

足音を殺して、フードを目深に被っている人物の横に立つ事にした。
驚かせてやろうと思ったのだ。
けれど、彼女は私が隣に立つよりも早く顔だけを此方に向けた。
なんと反応が良いのだろう。
しかし、真横に向けただけでは来訪者の足しか見えぬらしく、緩やかに首に角度をつけた。
被っていたフードがぱさりと落ちる。
そうして、ようやく石灰色の髪と驚いたように丸くなった赤い瞳が現れた。


「元気か?」


訊ねてから気がつく。
彼女に外套とも違う、別の白が巻き付けられていたのだ。




 
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