□檻の外へ
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内戦終了後、私は退役した。

あの日まで軍を辞めるつもりなどなかった。
生まれた場所が違うというだけで、同じ毛色の軍人が粛正されても気持ちは揺らがなかった。

だが、事情は変わってしまった。

私の負った傷はあまりにも酷く、半年程東部の病院から出られなかった。
あの白く狭い部屋に閉じこもっていると、どんどんと気が沈んでいくのだ。
憎んだわけじゃない。
ただただ悲しくて、嗚咽を噛み殺して泣いた日々。
忙しい合間を縫って見舞いに来てくれる友のおかげで寂しくはなかったが、私は笑えなかった。
余りの悲しみに、他の感情は泡となって消えてしまったらしい。
そんな涙の海に溺れた時間だった。

体の傷も癒え、どうにか立ち直り、中央に帰れるようになっても体力は落ちきっていた。
更に、右足からは痛み消えず長い間杖をついて歩いていた。
とてもではないが戦えない。
それでも事務なら出来るのではと思った。
しかし、それも許されなかった。

行く先々で人々は私を見れば口々に噂を影で交わす。
それも事実に尾ひれが何枚もついて、種類は様々。
最初は気にせず、取り合わずに耐えた。
でも、周囲の悪意と好奇は収まることを知らない。
何より辛かったのは、何処に行ってもあの男を思い出さなければならないこと。

噂の全てにあの男が絡む。

噂の内容などよりも、ただその一片の真実に私は耐えられなかった。

だから、私は軍服を脱いでしまった。




 
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