□女王様へ謁見
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駆け込んだ洋服屋でキンブリーさんは列車の中で約束した通り、私に新しいコートを買ってくれました。
帽子と手袋、マフラーもつけて。
ブーツは荷物になるからまたの機会に、だそうです。
でも、今度は黒をベースにコーディネートしたのが気に入らないらしく、お会計のその時まで渋ってました。
別にいいじゃんねぇ?




レイブンと合流したその足で、私達はブリッグズの砦にやって来た。
何やら取り込んでいるらしく、砦の中には慌ただしい空気が流れている。


「これはこれは、レイブン中将。お待たせして申し訳ありません」


聞き覚えのある低音ボイスが廊下に響く。
そして、大股で駆けつけてくる男。
彼も上官を待たせてしまった失敗とは違う、別の何かに慌てた様子である。
何があったのだろうか。
しかし、彼はレイブンに対してそれを語らない。


「マイルズ少佐。彼に砦の中を案内してやってはくれないかね。」


レイブンに紹介されたキンブリーは、それまで俯き加減だった顔を上げて、帽子を取った。


「よろしく、マイルズ少佐。面倒を見てくださるのでしたね?」


その時の表情ったら、なんとも言えないくらい悪い顔だった。
本当、悪趣味なヒト。



底冷えのする廊下をキンブリーと行く。
私達を案内するのは少し前を歩くマイルズ少佐。
彼は、あの麓の病院でキンブリーにタンカを切った人物に違いない。
布に隠されていない部分から覗く褐色の肌に、特徴的なカットの薄いグレーの髪。
サングラスを掛けてはいるが、おそらくきっとあの下の目は…


「……あか。」


私は自分の目元に手をやっていた。
昨日のキンブリーの言葉を信じるならば、彼も私と同類なのだ。
しかし、彼に親近感は覚えない。
おそらく、あちらもそうだろう。
向けられた背中からは敵意と嫌悪が滲み出ているからだ。


黙々と廊下を歩み続ける私達の前方から数人が纏まって歩いてくる。
軍人が二人に、その前を歩かされる二人は大きな鎧と赤い小さいの。
見間違えようが無い、彼らは鋼の兄弟だ。


「鋼の錬金術師を東牢から西牢へ移送中であります。そちらの御仁は?」
「ゾルフ・J・キンブリー氏。レイブン将軍の客人だ。こちらはアーデルハイド・ヤード女史。」


マイルズがキンブリーに対して紹介しているのだから、間違い無い。


「なるほど、二つ名通りの姿……あ、こっちですか。」


初対面のキンブリーが、鎧とチビを間違えてるのだから絶対そうだ。
ついでに軍人の一人も良く見ればファルマン准尉だし。
でも、そんな事はおいといて、一体どうした事か。


「エド、アル、なんで縄打たれてんの?」


久しぶりに顔を合わせたエルリック兄弟は、縄でギッチリと縛られていた。


「姉ちゃんこそなんだよ、その髪。」
「黙秘権行ぉ使!」


掌を向けて質問を突っぱねると、エドワードが眉をつり上げ牙を剥く。
相変わらずからかい甲斐のある少年だ。


「だったら、こっちも黙秘権使ってやらぁ!」


そんな感情的な兄に対して、冷静な弟が的確な質問を投げてくる。


「アディさんどうしてこんな所に?」
「仕方無く。二人はどうして?っーか、何をしちゃったの?」


仮にも少佐相当官なのだから、こんな目に遭うなんてよっぽどの理由がある筈。


「あ、わかった。此処の女王様に嫌われたンだな?」


それなら、縛られちゃっても仕方がない。
なんて笑って言って、嫌な汗がぶわっと出た。
自分も他人事ではないのだ。
縛られて投獄で済めばいいのだけど。



 
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